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横田英史の読書コーナー

日本社会のしくみ〜雇用・教育・福祉の歴史社会学〜

小熊 英二 、講談社現代新書

2019.10.1  9:53 am

 日本人の働き方の成立過程を、雇用や教育、福祉、社会制度、日本の組織(官僚や軍隊)などを切り口に歴史を丹念にたどりながら明らかにした書。筆者は、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明を目標にしたという。議論がきわめてクリアでいちいち腑に落ちる。年金問題の根本的な原因や社会の変化に制度が追いついていない現状がよく分かる。読後感がとても爽やかな良書である。新書にしては600ページを超える大著で価格もそれなりだが、読む価値は十分にある。

 とりわけ興味深く読んだのが、日本政府と財界(日経連)が職務給と普遍的社会保障、企業横断的労働市場による変革を構想し経済審議会の答申をまとめたものの、経営者と労働側が企業横断的ルールを嫌ったという指摘。1960年代前半のこの構想が実現していれば、日本社会の様相はかなり違ったものになっていただろう。日本企業の人事制度が、官庁の学歴身分制や軍隊の階級制から借りてきたものという指摘も面白い。

 ちなみに日本社会を構成する原理は4つ。第1は何を学んだかが重要ではなく学歴主義、第2は一つの組織の勤続年数の重視、第3は都市と地方の対立、第4は女性と外国人の不利である。こうした原理が世の中の変化についていけず、大学進学率の向上や一括採用といった制度があいまって、日本型雇用制度は構造的欠陥を抱えるに至った。従来は社会全体でカバーしていた部分がほころび、貧困が発生する可能性が高まっているという。

書籍情報

日本社会のしくみ〜雇用・教育・福祉の歴史社会学〜

小熊 英二 、講談社現代新書、p.608、¥1430

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。