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横田英史の読書コーナー

八九六四〜「天安門事件」は再び起きるか〜

安田峰俊、KADOKAWA

2019.7.15  10:37 am

 1989年6月4日に起こった天安門事件の“今”を追ったノンフィクション。当時の学生リーダー、スト参加者、傍観者、政府側の警備を行った大学生、まだ生まれていなかった者など60人以上に対するインタビューに基づき、天安門事件がそれぞれの人生や中国、香港、台湾に与えた影響について紹介する。天安門事件は東西ドイツの統一やソ連の崩壊、台湾民主化の要因の一つとなった歴史のターニングポイント。

 本書を読むと、現在起こっている香港のデモの背景、台湾でのヒマワリ学連などの民主化運動についての知識が得られる。天安門事件後において、中国で民主化運動が広がらなかった理由も何となく分かる。風化しかけている天安門事件を振り返ることのできる良書である。

 取材対象は今も民主化運動に携わっている者、亡命した者、日本で成功した者、市井の人々など多岐にわたる。学生リーダーとして著名な王丹やウアルカイシのほか、日本で活躍している石平を取り上げる。学生リーダーだった柴玲が登場しないのは少々残念だが、トランプ政権の軍師だったバノンも登場する。

 中国では6月4日前後に言論弾圧はもちろん、警備も強化される。インターネットでの決済で「64元」「8964元」の金額指定ができないと言われるほどの徹底ぶりだ。筆者は監視社会化が進む前の2011年〜2015年に中国の取材を行っており、本書に取り上げられたコメントは実に貴重である。

書籍情報

八九六四〜「天安門事件」は再び起きるか〜

安田峰俊、KADOKAWA、p.304、¥1836

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。