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横田英史の読書コーナー

機械との競争

エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、村井章子・訳、日経BP社

2013.2.26  12:00 am

 日経の朝刊や東洋経済などに取り上げられ、ちょっと話題になっている書。テクノロジー(主に情報技術)が雇用、技能、賃金、経済に及ぼす影響を、米MITスローン・スクールの教授と研究者が論じている。そもそも2011年に自費出版された200ページに満たない本だが、中身は濃い。すでに多方面で論じられている内容も含まれているものの、まとめて読むと情報技術の雇用や経済に及ぼすインパクトの大きさがよく分かる。多くの技術者の方にお薦めした1冊である。
 人間はすでに技術に後れをとっている。コンピュータとの競争に人間が負け始めており、これが雇用が回復しない原因だと著者は主張する。確かに米Googleの技術は週百kmの自動運転を可能にしているし、米IBMの機械翻訳ソフトはリアルタイムで正確な応対を実現する。いつのまにか技術は不可能だと思われていたタスクをこなすようになっている。では、これからの労働はどうなるのか。筆者はスキルの高い層と低い層が生き残ると断じる。高い層は分かるが、低い層(肉体労働)は体の動きと知覚を上手くこなす必要があり機械には真似ができない。職を奪われるのは中間層の人材である。
 筆者は本書の最後に、技術の後れをとらないための19か条を挙げる。教育、起業家精神、投資、法規制・税制といった視点から論じており、示唆に富む指摘が多い。

書籍情報

機械との競争
エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、村井章子・訳、日経BP社、p.176、¥1,680

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。