横田英史の読書コーナー
訣別 ゴールドマン・サックス
グレッグ・スミス、徳川家広・訳、講談社
2013.2.7 12:00 am
筆者は、20代後半でバイス・プレジデントに就くなど、若くしてゴールドマン・サックスの幹部に昇進したエリート。本書は、筆者がスタンフォード大学在学時代のインターン経験から、リーマンショック以降に拝金主義がはびこるようになった社風に疑問を抱いて退社するまでを詳細に描いた手記である。ウォルストリートの住人たちの生態を余すことなく描いており、米国の金融業界に関心のある方には必読の1冊といえる。特に上司との関係やオフタイムの生活の描写は興味深い。逆にウォールストリートに関心がない方には、400ページを超える大著なので読み進むのが苦痛かもしれない。
筆者が入社したのは同時多発テロ発生直前の2001年。当時のゴールドマン・サックスには、「長期的に貪欲であれ」と、顧客の利益を優先することが長期的には会社のためになるという考え方が残っていたという。ところがリーマンショック以降は、ボーナス至上主義が蔓延し、短期的な利益に飛びつく社風に変わっていった。社員は上層部から新入社員まで顧客を食い物にする状態だった。例えば新人アナリストが顧客を「マペット」と呼び、好きかってに操れる対象と見くびり、自分よりも知性の劣った人間として扱うまでになる。顧客の世話を焼く受託者責任感の強い営業マンは絶命危惧種だと、筆者は言い切る。
こうした状況に筆者は12年間勤めたゴールドマン・サックスを辞めることを決意する。同時に、退社するまでの経緯を綴った手記「Why I Left Goldman Sachs」(タイトルは本書と同じ)を米ニューヨークタイムズ紙に寄せる。この手記は、筆者の退社直後の2012年3月14日に掲載される。この手記に大幅に加筆したのが本書である。
書籍情報
訣別 ゴールドマン・サックス
グレッグ・スミス、徳川家広・訳、講談社、p.458、¥1,995