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横田英史の読書コーナー

ライト兄弟~イノベーション・マインドの力~

デヴィッド・マカルー、秋山勝・訳

2017.10.5  10:11 am

 誰でも知っている動力飛行機の発明者・ライト兄弟。そのライト兄弟を、米国議会図書館所蔵の私的文書、手紙、日記、技術資料などにもとづいて詳細に追った評伝。ライト兄弟の人がら、兄弟を育んだ故郷、風洞装置の製作、動力飛行成功後の歩み、公開飛行の数々、世界“初”の有人飛行や特許、飛行機の事業化をめぐる争い、兄弟を支えた妹・キャサリンの存在など、知られざる兄弟の側面を取り上げており読み応えがある。当時の写真も満載で楽しめる。皆が知っているライト兄弟を、本書でいま一度勉強するのも悪くない。秋の夜長の読書に向く1冊である。

 権威とみなされていた計算や係数表が推測に過ぎず信頼できないことが判明するなど、有人飛行が成功するまでの過程は困難の連続だ。それを創意と工夫によって乗り切る様子は実にドラマチックである。「世界史上、これほど科学的な手法と不屈の闘志をもって問題と向かい合った人間はかつて存在しなかった」とは英国王立航空協会が兄弟を評した言葉だが、的を射ている。

 1000ドルほどで開発されたライト兄弟の動力飛行機。その一方で、彼らが有人飛行に成功する直前に、7万ドルにおよぶ巨額の公的資金が投じられながら失敗に終わったプロジェクトが存在したことは寡聞にして知らなかった。民間の力によって成し遂げられた人類初の有人動力飛行。副題に「イノベーション・マインドの力」というのもよく分かる。

書籍情報

ライト兄弟~イノベーション・マインドの力~

デヴィッド・マカルー、秋山勝・訳、p.422、草思社、¥2376

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。