イベント・リポート NO-21
ESC Silicon Valley 2006 その2
4月3日米国カリフォルニア州サンノゼ

プロセッサ・ベンダの展示と発表

ESC SVには今年も主要な組込みプロセッサのベンダが揃って出展していたが、NECエレクトロニクスの姿だけは見えなかった。同社の不参加は、先に発表されたように同社の米国法人が今後、自動車関係のビジネスにフォーカスするという新しい戦略の影響なのであろうか?(参照;2月の発表)。組込み分野でも大きな影響力を持っているIntelはこのイベントの少し前に発表したXeonのデュアル・コアプロセッサー・低電圧版 (LV)を含めたエンベデッド・ソリューションを展示していた。ライバルのAMDもハイエンドの64ビット・プロセッサによる組込みシステム・アプリケーションに対するソリューションを展示すると共に、組込み専用プロセッサ、GeodeとCS5536コンパニオン・チップ、DRAM・FLASH、高速I/Oなどを115 x 165mmサイズのボード(EPIC)に実装した" Geode LX EPIC Reference Design kit(RDK)を発表した([ESC速報26])。

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Atmel社のAP7000用スタータ・キット

昨年のESC San Franciscoでは、Atmel社が高性能RISCプロセッサとFPGAを混載した新しいSoC構想を発表していたので、今年は製品を見られるかと期待したのだが、残念ながら、その発表や展示はなかった。その替わりでもないだろうが、Atmelのブースでは、新しいAVR32コアをベースに開発されたSignal Controller、AP7000ファミリが発表されていた(EIS[ESC速報1])。これは、携帯型マルチメディア機器、セットトップボックスなどに必要なインタフェース、画像/音声信号処理機能、メモリ機能などをすべて備えたプロセッサで、写真のようなPCIベースのスタータ・キットも展示されていた。

 日系の半導体メーカーでは、ルネサス・テクノロジが電力線ネットワーク(PLC)とZigBeeワイヤレス・ネットワークを組み合わせたHome LANソリューションを展示していた。家庭内ネットワークを強調するためか、ブースに写真のようなエプロン姿の専業主婦らしき女性が立っていたのはご愛嬌。

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家庭内ネットワークのソリューションを展示したルネサスのブース

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東芝のブース

一方、東芝のブースには、残念ながらMePやCELLの展示はなく、日本ではすでに公表されているFLASH内蔵型MCUファミリを中心にした展示となっていた。それにしても、東芝のブースは、毎年同じような感じがしてならない。来年は、我々の目を驚かせるようなブース・デザインと展示品を期待したい。また、富士通はこのイベントの前に日本で発表した白物家電用MCU,MB91470を米国でも正式発表していた(EIS[ESC速報12])。

この他、ARM、Freescale Semiconductor、ST Microelectronics、Texas Instruments、Analog Devicesなどの主要なMCU、DSPベンダが今年も最大級のブースで出展し、多くのプレス発表を行った。しかし、今年のESC SVでは、我々を驚かすような新しいアーキテクチャのプロセッサの発表はなかった、というのが正直な感想だ。そうした中、意欲的な発表を行ったのが台湾のVIA Technology社だった。同社が発表したのは、C7とEdenプロセッサに対応したマルチメディア機器用コンパニオン・チップ、CX700(EIS[ESC速報8])。このチップには、ビデオ・グラフィックス・エンジン、HDオーディオ信号処理機能、DDR2メモリやSATA IIインタフェースなど、マルチメディア機器に必要なほとんどの周辺機能が集積化されており、C7またはEdenプロセッサとの2チップ構成でマルチメディア信号との接続と処理が可能になる。追加の周辺チップが不要になるため、従来よりもボード・スペースを34%以上、削減できるという。同社は記者発表でこのチップを搭載した試作ボードを示した。

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VIA TECHNOLOGY社の記者発表会の模様とCX700を搭載した試作ボード

その他の目立ったベンダやブースは?

その他に留まったベンダやブースを紹介しよう。
組込みソフトウェア技術者にとって最大の関心事であるソフトウェアTESTING TOOLについては、今年も多くの会社が新しい製品を展示していたようだが、小生が思わず足を止めたのが英国の LDRAという会社の小さなブースだ。このブースには下記の写真のような大型パネルがあっただけなのだが、この会社のツール・セットが、コード、品質、デザインのリビューから、単体テスト、カバレッジ解析、テストの自動化までを包括的にサポートしていることがわかった。同社の製品は、日本でも EIS Embedded紳士録の第41章に登場した浅野義雄さんの富士設備工業から販売されている。

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LDRA社のブースにあった大型パネル

目に留まったといえば、昨年のESCでARMコアのライセンスを発表したFPGAベンダ、 Actelのブースがユニークだった。同社のブースは、World Cup Yearを意識したのか、サッカーをテーマにした構成になっていた。下記の写真のように、説明員は全員、背番号1のユニフォームをまとい、 ARM7コアとアナログ回路を集積したM7 Fusionデバイスのプロモーションを行うと共に、FPGA搭載のロボットを使ったサッカーゲームで来場者を楽しませていた。

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サッカーをテーマに取り上げたActelのブース

このイベントには毎年、アジア各国からも多くの企業が出展してくるが、昨年のET2005に初出展した韓国のHUINS社もそのうちの1社だった。同社はXilinxのVirtex-4をベースにしたARM AMBAバス用IPコア検証プラットフォーム、VIP-5000などを展示していた。 XilinxのFPGAとARMコアという面白い組み合わせだけに、米国だけでなく日本でも人気がでるかもしれない。日本からは広島のインタフェース社やアドバネット社が今年も意欲的に出展していたが、意外だったのが浜松を拠点する フラッシュ・サポート・グループの出展だった。同社、旧安藤電気のプログラマ製品部門を東亜グループが買収した形でスタートした企業だが、世界的にも数少なくなったプログラマ専業ベンダとして世界市場への進出を目指しているようだ。同社のブースには東亜グループ企業の幹部達も訪れ、海外展開へ賭ける同社の熱意を感じさせた。

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HUINS社のVIP-500

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フラッシュ・サポート・グループのブース

ESCで目立つブースといえば、過去2年ほど、面白い趣向を凝らして我々の眼を楽しませてくれたのが Green Hills社だった(参照:ESC2004 レポートESC2005レポート)。

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Green Hillsのブース

今年の同社のブース・サイズは例年通りだったものの、これといったユニークな趣向はなく、RTOS、INTEGRITYを中心にした製品、技術をプレゼンテーションなどで訴える正攻法の展示になっていた。期間中、同社は新しい超コンパクトサイズの RTOSカーネル、µ-velOSity(EIS[ESC速報9])やデバッグ・ツール、 TimeMachineの新しいデータ収集機能を発表(EIS[ESC速報22])して注目を集めていた。

まとめと感想

以上、今年のEmbedded System Conferenceの感想をとりとめもなくまとめてみたが、冒頭に述べたようにこのイベントの業界への影響力は相対的に低下しているように感じた。主催者が会場をサンフランシスコからサンノゼに戻した理由には、出展社の減少もあるかもしれないが、サンノゼのほうが来場者は増えるという期待があったからだろう。しかし、連日雨模様という悪天候の影響にあったにせよ、来場者は主催者発表で昨年と同じ1万人で、日本のET2005の半分以下に留まったようだ。日本からの来場、見学者も数年前から比較すると大幅に減少しているようで、期間中に小生がお目にかかった日本人は10名程度だったし、プレスセンタで日本人記者を見かけることもなかった。確かにシリコンバレーの中心地、サンノゼは、この地を拠点する出展社にとっては好都合だ。しかし、シリコンバレーはマイクロプロセッサや設計TOOLの世界的開発拠点であることは疑いの余地がないが、組込みシステムの世界的な開発拠点とは言い難い。航空、宇宙や基幹通信機器などを除く主要な組込みシステムの開発拠点は、やはり日本を含むアジア地域に大きくシフトしていることを改めて感じる。
ただし、今後も各社から新しい製品や技術がこのイベントに合わせて発表されることは間違いなく、今年も数多く提供されたカンファレンス・プログラムと併せて、このイベントは組込み業界の重要なイベントとして存続してゆくことは間違いなそうだ。
会期中は今年も多くの出展社からインタビューの申込みがあり、会場をじっくり見て回る時間がなかったため、「掘り出し物の新製品」や注目される新しい出展企業を十分に発見できなかったことは、今年の大きな反省点だ。今年も会期前から4日間共、プレスルームの高速インターネット環境とコーヒーには大いにお世話になった。今年もプレスルームのスポンサになっていたXilinx社に敬意を表する。

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PRESS ROOMにあったXilinxのサインボード

また、会期中に会場に隣接したTech Meseumで上映されていた 3次元効果の映画、「Roving Mars」の上映会に報道関係者を招待してくれたIBMとFreescale Semiconductorの両社に感謝したい。
なお、会期中に各社から発表されたプレスリリースのうち、EISが速報したものは、いずれもEISのPRESS RELEASEページから拾うことができる。

リポータ:EIS編集部 中村正規

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