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横田英史の読書コーナー

会話の0.2秒を言語学する

水野太貴、新潮社

2026.3.12  8:32 am

 タイトルにつられて軽い内容だと思って購入したが、“言葉オタク”の手による真面目な言語学の書。人が会話をするときに、相手の発言から平均で0.2秒(200ミリ秒)後には返答している。この「ターンテイキング」の早業を可能にする仕組みを解き明かした書である。“0.2秒”がなかなかキャッチーで惹きつけられる。著者は言語学を大学で学んだものの学者ではない。YouTubeやPodcastで言語学を語る“スピーカー(いわゆるオタク)”というのも今どきである。
     
 筆者はまず、全体の約半分のページを割いて言語学の理論を解説する。この言語学の理論を道具に使いながら0.2秒の不思議を解明する。少し混み入った話もあるが、図や事例を上手に使いながら解説しているので混乱することはないだろう。単語の意味や文構造の把握、解釈の導出やジェスチャーなどの言葉外の情報の処理は、相手の発話が終わってから始まるのではなく、発話を聞きながら同時並行的に進む。しかも大人だけではなく、幼児のときから備わっているというから言語は奥深い。
     
 ちなみに本書は専門家がチェック済みという。安心して読んでも、蘊蓄として語っても問題なさそうだ。例えば、日本語話者のターンテイキングは世界的に「せっかち」というのは面白い。自閉スペクトラム症の子どもが方言を習得しにくい理由にも驚かされる。会話の間に挟まれる「まあ」「あの〜」「その〜」「え〜っと」といった意味のない言葉(フィラー)には発言権を維持する効用があるというのも得心がいく。

書籍情報

会話の0.2秒を言語学する

水野太貴、新潮社、p.240、¥1760

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。