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横田英史の読書コーナー

社会の価値の測り方〜「見える化」で地域を豊かにする〜

枝廣淳子、岩波新書

2026.3.1  8:29 am

 地域経済や社会、環境を定量的に見える化して、抱える課題の解決や改善に生かす実例や可能性について論じた書。エビデンスに基づく意思決定や政策決定について、事例を用いて説明しており説得力に富む。とりわけ「幸せ」の社会的価値を測定する方法に関する議論は興味深い。不思議なタイトルに誘われて購入したが、予想外に面白く読後感は悪くない。ちなみに著者は環境ジャーナリストで同時通訳者、翻訳家である。アル・ゴアの『不都合な真実』の翻訳も手掛けている。
     
 著者はまず、環境負荷の「見える化」について論じる。LCA(Life Cycle Assessment)について、大阪の中小企業・大阪送風機やセイコーエプソンでの実践例を取り上げる。LCAという言葉は知っていたものの、実例は寡聞にして知らなかった。興味深いのは、都市まるごとを対象にしたLCAである。パリ郊外の都市開発プロジェクトで適用されたという。
     
 さらに地域経済の「見える化」に議論を進める。どの産業がどの産業と、どれくらいのモノやサービスをやりとしているかを一覧にした「産業連関表」を使う。これで地域経済の構造をまるごと見える化する。管見にして産業連関表を知らなかったので勉強になった。気仙沼市や北キプロス、名古屋を中心とした東海地域を事例として取り上げる。
     
 最後に取り上げるのが「廃棄物産業関連票」。ある地域や国の経済活動と、そこで発生する廃棄物の関係を定量的に可視化したものだ。廃棄物の流れを産業間の関係の中で体系的に整理・数値化する。興味深いのはウォーターフットプリントと呼ばれる「水の見える化」である。ある製品やサービスが作られる過程で、どれだけの水資源が使われたかを可視化する。花王やマイクロソフトの事例を取り上げる。日本の食料輸入によって海外で間接的に消費される水を考えると、日本は消費している水の3分の2を海外に依存しているという。

書籍情報

社会の価値の測り方〜「見える化」で地域を豊かにする〜

枝廣淳子、岩波新書、p.236、¥1034

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。