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横田英史の読書コーナー

可視化される差別〜統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義〜

五十嵐彰、新泉社

2026.2.10  7:44 am

 差別とは何か、排外主義とは何か、どのような場面で差別が起こるか、差別される当事者に与える影響などについて、海外を中心とした研究成果に基づき論じた書。調査を統計的に分析することで差別を可視化し、その実態を明らかにする。多角的な視点から差別について考察しており納得感がある。外国人排斥や排外主義が政治的な議論を呼んでいるいま、時宜にかなった書でお薦めである。
      
 筆者はまず、差別の定義、理論と検証から説き始める。次に労働市場や経済活動、公的機関、政治において、どういった場面で差別が起こるかを明らかにする。その後、差別の社会的・経済的な影響、健康面への影響、集団関係における影響に言及し、排外主義へと議論を展開する。最後に、差別や排外主義を減らすための処方箋を描き、日本の研究に関する展望をまとめる。
     
 筆者は、日本について「うわべだけの多文化主義」と厳しい目を向ける。移民がナショナル・アイデンティフィケーションを持つことが、社会の連帯感を保つ上で重要である。しかし移民第1世代の日本に対するアイデンティフィケーションが低く、日本に定住しないことが問題だと著者は指摘する。差別が集団間の関係や他者への信頼性を損ない、差別を経験した移民や人種の社会的・経済的地位を危うくし、精神的・身体的な健康を損なう。
      
 興味深いのは、「外国人労働者の受け入れを制限すべきか」を尋ねた場合の日本と欧米の反応の違いである。欧米は排外的な回答を避ける傾向にある。内心では排外的な態度をもっているのだが、それを回答で表明しようとしない。これは好意的にならねばならないという社会的規範があり、それに反することで周囲から避難されることを恐れるためだとする。
      
 一方、日本人は回答の内容を他者に見られる環境だと、排外的な回答をした。日本には、排外的にならなければならないという社会的規範が存在することが原因だと分析する。このほか米国とカナダとの対比も面白い。米国に対するアイデンティフィケーションが高い米国人はより排外的で、カナダ人はその逆だという。

書籍情報

可視化される差別〜統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義〜

五十嵐彰、新泉社、p.432、¥3850

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。