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横田英史の読書コーナー

自己との対話〜社会学者、じぶんのAIと戦う〜

吉見俊哉、集英社新書

2026.2.5  9:35 am

 社会学者の著者が、自らの書籍や論文などの著作をすべて生成AIに読み込ませて構築した「AI吉見」との対話を書籍化したもの。「社会学」「大学」「日本の都市」「世界情勢(アメリカ)」をテーマに語り合うことで、生成AIの欠陥と限界、可能性を社会学者の目を通して検証する。対話は9か月、数十回にわたったという。生身(なまみ)の著者の意地悪い質問の数々に、AI吉見は四苦八苦しながら回答する。意地悪い質問には専門性が高く、重箱の隅を突付くようなものもあるが、生成AIの致命的な欠陥と限界が浮き彫りにしているのも確かである。
    
 著者は6つの観点からAI吉見を分析する。①AIの応答に一貫性があるか、②反論できるか。反論し始める閾値はどこか。③AIは自らの発言のなかに含まれる矛盾を認識できるか。④社会学的議論の背景にある仮説(暗黙知)を見透せるか。⑤思考のジャンプができるか(刮目すべき議論を展開できるか)。⑥身体性をもたないことが思考に与える影響ななにか。
      
 著者が投げかける質問は専門性が高い。それに対するAI吉見の回答には間違いが少なくないが、専門家でないと真偽を判定できないものも多い。素人なら簡単に騙されるレベルである。生成AI時代に、人間が身につけるべき知性や知識、思考力、リテラシーを問うチャレンジングな書で、生成AIを活用する方々にお薦めの1冊である。
      
 それにしてもAI吉見の回答は、一部を除いて独創性や面白みに欠け、実につまらない。感動や共感は生まれそうにない。反論されたらすぐに前言を翻し、表面的な修正で誤魔化そうとするのも特徴である。

書籍情報

自己との対話〜社会学者、じぶんのAIと戦う〜

吉見俊哉、集英社新書、p.336、¥1210

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。