Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

シオニズム〜イスラエルと現代世界〜

鶴見太郎、岩波新書

2025.12.7  9:47 am

 なぜイスラエルは、国際社会から非難を受けながら、ガザ(パレスチナ人)への無慈悲で徹底的な攻撃の手を緩めないのか。この書評でも取り上げた「ユダヤ人の歴史」の筆者がこうした疑問に、イスラエル建国までの歴史を踏まえながら答える。現代イスラエルを突き動かす思想「シオニズム」の正体について、その起源と変遷を明らかにする。
 シオニズムとは、パレスチナにユダヤ人の民族的拠点を作るという、ホロコースト以前に東欧で生まれた思想や運動を指す。生まれつきシオニストだった者は一人もいない、シオニズムを選んでも不思議ではない構造や状況があり、ユダヤ人の中から一定数がシオニストになるという。
      
 評者が寡聞にして知らなかった、シオニズムやユダヤ教、東欧におけるユダヤ人の歴史などを本書はカバーしており、とても勉強になる。筆者はユダヤ人とイスラエル、パレスチナ人とイスラエル、西欧・米国とイスラエルの間の微妙で複雑な関係を解き明かす。ガザ攻撃やイラン戦争の背景には、西洋文明の砦だというイスラエルの自覚があるというのも初耳である。西欧のガザの虐殺に対する欧米の反応を正しく理解する上でも役立つ。
      
 筆者は、今のイスラエル社会を「ゲーテッドコミュニティ」と分析する。イスラエルがパレスチナ人の居住区の間に構築した高さ9mの“壁”が、自らの繁栄を壁で囲って守るとともに、その外側で何が起こっているかを見えなくする効果をもたらした。ゲーテッドコミュニティ化した社会状況がガザの事態を悪化させている。今の時代にピッタリの書で、お薦めである。

書籍情報

シオニズム〜イスラエルと現代世界〜

鶴見太郎、岩波新書、p.304、¥1232

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。