Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

福音派〜終末論に引き裂かれるアメリカ社会〜

加藤喜之、中公新書

2025.11.8  9:36 am

 米国の政治や社会に強い影響力をもつ米国の宗教集団・福音派について、教義や名前の由来、歴史、活動内容、影響力拡大の過程などを解説した書。トランプ大統領の誕生や再選に強い影響力を行使した福音派だが、評者にとってその実態や影響力の源泉など分からないことだらけだった。筆者は、福音派を特徴づける原理主義や進化論の否定、人種差別、中絶・同性婚反対などの特異な行動原理を歴史を踏まえて批判的に解き明かす。
     
 福音派は聖書中心主義のキリスト教プロテスタントである。米国の人口の25%を占めるという。聖書に書かれた内容に忠実で、創造論などを文字通りに受け止める傾向があり、妥協を許さない原理主義的な色彩が濃い。憲法はキリスト教の文脈で解釈しなければならない。教育や経済は、神の支配下で自由な個人の営みでなければならない。したがって、連邦政府の介入は極力排除しなければならないとする。
     
 終末思想も特徴の一つとして挙げられる。現代の政治的・社会的な対立は、終末に向かう世界における善と悪との戦いの一部だとする。善の背後には神が存在し、悪の背後にはサタンの存在を見る。このため敵を悪魔化し、徹底的に叩くことを躊躇しない。米国では人口の40%が終末論を信じているが、福音派では60%を超えるという。
      
 福音派と米国歴代大統領との関係は興味深い。そもそも福音派台頭のキッカケをつくったのが民主党のカーターだったり、クリントやオバマとの関係が近かったという話も初めて知った。本書は米国社会分断の一因となっている福音派をざっと知ることができる書で、亀裂が深まる米国社会に興味がある方にお薦めである。

書籍情報

福音派〜終末論に引き裂かれるアメリカ社会〜

加藤喜之、中公新書、p.312、¥1320

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。