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横田英史の読書コーナー

国家にモラルはあるか?〜戦後アメリカ大統領の外交政策を採点する〜

ジョセフ・S・ナイ、山中朝晶・訳、早川書房

2025.8.23  6:51 am

 クリントン政権やオバマ政権で外交関係の政府高官を務めた国際政治学者による、米国大統領の外交政策の通信簿。戦後のアメリカ大統領で最も倫理観のある外交政策をおこなったのは誰か、最も倫理観のなかった大統領は誰か、などを論じる。対象とするのは、第32代大統領のフランクリン・ルーズベルトから第1次トランプ政権まで。リベラル寄りの評価は否めないが、共和党の大統領にも意外に高い評価を与えており党派による偏りはさほど気のならない。基本的に忖度なしのストレートな語り口で歴代大統領の政策を切り捨てている。
     
 外交政策を「目的と動機」「手段(実際にとられた行動)」「結果(事後的ないし長期的視点からの評価)」に分けて分析する。さらに①目的・動機については魅力的な価値を示したか、②手段については軍事力は適切に用いられたかや権利・国際法・国際的な制度に配慮したか、③結果については米国民の受託者としての責任を果たしたかや他国民の権利に配慮したか、などを考慮し、それぞれについて「よい」「悪い」「評価が分かれる」で採点する。
      
 筆者の評価での上位4人は、ルーズベルト、トルーマン、アイゼンハワー、父ブッシュである。中位には、レーガン、ケネディ、フォード、カーター、クリントン、オバマが並ぶ。最下位は、ジョンソン、ニクソン、子ブッシュ、トランプである。トランプは、状況を把握する知性に著しく欠陥があると断じる。危険の意図的な無視、無謀な状況把握、重大な怠慢を指摘する。

書籍情報

国家にモラルはあるか?〜戦後アメリカ大統領の外交政策を採点する〜

ジョセフ・S・ナイ、山中朝晶・訳、早川書房、p.384、¥3190

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。