Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

稼ぐ小国」の戦略〜世界で沈む日本が成功した6つの国に学べること〜

関山健、鹿島平和研究所、光文社新書

2025.7.3  8:14 am

 日本経済再生の参考にするために、一人あたりGDPでベスト10入りしている6つの“小国”をピックアップし、稼ぐ戦略を分析した書。分析するのは、ルクセンブルク、アイルランド、スイス、シンガポール、アイスランド、デンマークである。分析にあたっては、ガバナンスや政策、教育、人材育成、ビジネス環境の切り口で横串を刺す。各国の成長を支える文化や国民性、歴史を探る。
       
 例えばルクセンブルクは富裕層向けの金融業と宇宙産業に注力、アイルランドは海外からの巨額の直接投資、デンマークは働き手を増やす政策、シンガポールは「開放性」と「閉鎖性」のコントロール、といった具合である。分析結果は、正直なところ想定の範囲内にほぼおさまる。6カ国はそれなりによく知られており、日経新聞程度を読んでいれば、どのような産業振興や政策を行っているのかは既知だろう。残念ながら新たな情報に乏しい。
         
 本書を読んで感じるのは、日本はやるべきことを実行していないということである。少子高齢化や人手不足は何年も前から予測できたことだし、非効率なゾンビ企業が成長の足を引っ張っているのは自明だろう。それにもかかわらず有効な手を打てず、ゾンビ企業に補助金を投入する。「できない」理由を考えるばかりで、政治に見識と覚悟、一貫性がないことが、貧しい日本につながったことがよく分かる。

書籍情報

稼ぐ小国」の戦略〜世界で沈む日本が成功した6つの国に学べること〜

関山健、鹿島平和研究所、光文社新書、p.304、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。