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横田英史の読書コーナー

子どもの体験 学びと格差〜負の連鎖を断ち切るために〜

おおたとしまさ、文春新書

2025.6.27  8:09 am

 本書の帯には「習い事ゼロじゃ、ダメですか?」と大書されている。子どもの体験を貧困問題と関連付けて、「体験格差」として取り上げる雑誌を目にするようになった。本書は、習い事や旅行といった体験をさせないと、子供の将来が台無しになると親の不安を煽る風潮に、育児・教育ジャーナリストが警鐘を鳴らした書。筆者は体験格差について3つの警告を発する。第1「子育ての家庭依存が進むこと。第2は学びの喜びが奪われること。第3が子どもたちの自己像が歪められることである。
     
 筆者が問題視するのは、「子供の成長」や「子供の将来」を説いて、カルト宗教のごとく課金を求める体験ブームである。お金持ちの子どもが多くの習い事をさせられ、旅行に連れて行かれて体験を大量消費する。一方で、貧しい家庭の子どもは体験を積むこともできず、「体験の貧困」に陥る。体験の詰め込み教育を促し、「お勉強にプラスして体験型学習までも家庭の責任でお金をかけてやらなければ、我が子が“負け組”に転落するのではないか」親たちの弱みに付け込むビジネスの実態と問題点を明らかにする。
      
 筆者は、「子どもにとって本当に必要な体験とは何か」を探るために、100年以上の伝統があるキャンプや無料塾、駄菓子屋などの現場を訪れる。このほか、体験格差解消に向けて活動する4つの団体に質問状を送り、その回答も紹介する。予定調和的な内容で切り口が鋭いとはいえないが、今の時代を知ることのできる1冊である。

書籍情報

子どもの体験 学びと格差〜負の連鎖を断ち切るために〜

おおたとしまさ、文春新書、p.216、¥1045

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。