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横田英史の読書コーナー

ニューロテクノロジー〜脳の監視・操作と人類の未来〜

タ・A・ファラハニー、鍛原多惠子・訳、河出書房新社

2025.6.20  8:04 am

 脳の情報を収集・追跡・トレース・操作・監視・記録・格納するニューロテクノロジーの最前線と可能性を紹介するとともに、問題点と対応策を提示した書。脳の動きを検知してキーボードなどを操作するBMI (Brain Machine Interface)や、EEG(脳波)センサーを従業員に装着させて疲労度を計測・管理するのは序の口だ。脳の情報を操作して売りたいものを消費者に買わせる「ニューロマーケティング」や、犯罪捜査に脳情報を用いる「脳指紋法」、脳に装置を埋め込む「うつ病治療」など、本書が取り上げる具体的事例の数々には驚かされる。
      
 本書が紹介する「脳のハッキング」の実態は凄まじい。例えば、大学生による脳を活性化する「ブレインエンハンサー」の乱用。学業成績を上げるために、健常な大学生がADHD(注意欠如・多動症)治療薬を服用するという。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療にも脳波データを用いる。脳の動きをトラッキングしながら、トラウマの原因を消し去る。軍事利用も進む。脳をターゲットとする兵器は、敵兵の認知能力や意思決定に影響を及ぼし、支配下に置く。戦争は兵士の殺害から無力化へとシフトしつつある。
        
 法倫理学者の筆者は、ニューロテクノロジーによる個人情報と尊厳の侵害に危機感を募らせる。「認知的自由(Cognitive Liberty)」と呼ぶ新たな権利を提唱し、ニューロテクノロジーを規制する必要性を訴える。認知的自由とは、個人が自らの意思決定や精神状態、認知機能を自由に制御する権利を指す。「自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity:SSI)」の一種と捉えることもできる。AIだけではなく、

書籍情報

ニューロテクノロジー〜脳の監視・操作と人類の未来〜

タ・A・ファラハニー、鍛原多惠子・訳、河出書房新社、p.320、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。