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横田英史の読書コーナー

ロシア政治〜プーチン権威主義体制の抑圧と懐柔〜

鳥飼将雅、中公新書

2025.6.13  8:01 am

 ウクライナ侵略で100万人規模の死傷者を出し、欧米からの経済制裁を受けながらも、表面上は国民の支持を維持し続けるプーチン権威主義体制を探った書。ソ連解体から現在に至るまでの歴史をたどりながら、プーチンがどのようにして絶大な権力を手に入れたのか、権力維持のためにロシアの政治制度をどのように発展させたのか、現在どのようにして権力基盤を維持しているのかを分析する。
     
 本書は抑圧だけではなく、懐柔にも焦点を当ててプーチン体制を分析するところに特徴がある。例えば、利権と引き換えでエリートに体制への忠誠を誓わせ、選挙やプロパガンダを利用して統治の正当性を市民にアピールして権力基盤を固める。筆者は、統治機構、選挙、中央と地方の関係、治安機関、経済、市民社会の6つの切り口から分析を加える。地方政府や大企業、メディアを意のままに動かし、選挙や政党を操作する権力をどのようなプロセスを経て手に入れたのかを詳細に探る。
     
 筆者は、抑圧、抱き込み、正当性創出などを駆使するプーチンを、21世紀型「愛される独裁者」の典型と位置づける。ウクライナ侵略後も、国民生活の安定を決して脅かさないように細心の注意を払いながら作戦を進めているという。本書を読むと、プーチンが巧妙に自らの権力基盤を築き上げた過程がよく分かる。日々のニュースを読み解く上で基礎知識を得るのに向く書である。残念なのは、ロシア政治に付き物の“暗殺”への言及が乏しいところ。プーチン権威主義の特徴とも言えるだけに、物足りなさを感じざるを得ない。

書籍情報

ロシア政治〜プーチン権威主義体制の抑圧と懐柔〜

鳥飼将雅、中公新書、p.336、¥1375

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。