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横田英史の読書コーナー

暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン

ティモシー・スナイダー、池田年穂・訳、慶應義塾大学出版会

2025.5.25  7:56 am

 「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という言葉がある。本書は独裁をつながる20の韻(プロセス)を明らかにした書である。144ページとコンパクトにまとまっており、「ハンドブック」といった体裁で読みやすい。文体も短く、鋭くで切れ味が良い。20世紀の歴史から引き出された教訓は、いずれも正鵠を射ており納得性が高い。第1次トランプ政権時に出版された書で、筆者はトランプの危険性を声高に訴える。トランプやプーチン、習近平など権威主義が跋扈する今、弁えておくべき知恵が詰まったお薦めの1冊である。
     
 20のレッスンには、忖度による服従はするな、組織や制度を守れ、一党独裁国家に気をつけよ、職業倫理を忘れるな、準軍事組織には警戒せよ、自分の意志を貫け、自分で調べよ、危険な言葉には耳をそばだてよ、勇気をふりしぼれなどの警句が並ぶ。日本にも十分に通用する内容である。
      
 真実が事実に基づくものでなく、宣託(オラクル)めいたものになったら、証拠や証言は重要ではなくなり、果てしない嘘の連鎖に陥ると筆者は警告する。「ポスト・トゥルースとはファシズム前夜を意味する」と断じる。狡猾な政治家は、例外的な状態を恒久的な非常時に一変させることで、政敵や反対者の裏をかく。自由を代償にして初めて安全を得られると保証する政治家は、結局どちらも与えたがらないと断言する。
      
 ナチスを持ち出すまでもなく、民主主義的なプロセスを経て権力の座についた支配者が、組織や制度を変えたり潰したりすることで権力の基盤を固めるのは常套手段である。指導者を崇める準軍事組織が警察や軍隊とないまぜになると、「すでに終わりが来ている」という。連邦議会襲撃事件を生んだ米国は、すでに断末魔という訳だ。

書籍情報

暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン

ティモシー・スナイダー、池田年穂・訳、慶應義塾大学出版会、p.144、¥1320

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。