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横田英史の読書コーナー

日本史  敗者の条件

呉座勇一、PHP新書

2025.5.12  12:22 pm

 源義経や織田信長など8人の歴史上の人物を対象にした「失敗の研究」。上記のほか西郷隆盛、山本五十六、明智光秀、石田三成、田沼意次、後鳥羽上皇といった面々が登場する。この8人を現場主義・プレーヤー型、サラリーマン社長型、オーナー社長型に分類し、それぞれの失敗の原因を分析してビジネスに繋がる教訓を引き出す。評価が定まっていない人物については、論点を整理しながら自論を展開する。ベストセラー「応仁の乱」(中公新書)の筆者の説明は、さすがに簡にして要を得て分かりやすい。一人当たり30ページほどの解説なので、突っ込み不足を感じる部分もあるが、その分だけ簡潔で肩のこらない読み物に仕上がっており、歴史好きの方が出張のお供にするのに向く。
     
 現場主義・プレーヤー型として挙げた源義経、西郷隆盛、山本五十六の3人については、優秀な指揮官であったにもかかわらず、現場との適切な関係を構築することを失敗したために「敗者」になったとし、反面教師にすべきだと強調する。例えば西郷隆盛は、情に流された英雄の末路として紹介する。西郷は自らを過大評価し、汽船や電信といった当時の最新テクノロジーの威力を過小評価した。楽観的な見通しと、どっちつかずの方針に陥ったことが失敗の要因だったと分析する。
     
 サラリーマン社長型の敗因として、明智光秀は三日天下を招いた決断力不足、石田三成は組織づくりの軽視、田沼意次は官僚の枠を超えられなかった改革者の限界を挙げる。オーナー社長型では後鳥羽上皇と織田信長を取り上げ、前者は自身の権威の過信、後者は部下の謀叛を招いたブラック企業の長
の誤算といった切り口で教訓を引き出している。

書籍情報

日本史  敗者の条件

呉座勇一、PHP新書、p.264、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。