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横田英史の読書コーナー

続・日本軍兵士〜帝国陸海軍の現実〜

吉田裕、中公新書

2025.5.8  12:21 pm

 太平洋戦争における日本兵の“死”の実像を明らかにした「日本軍兵士」の続編。前作で不十分だった「大量死の歴史的背景」に迫ったという。なぜ大量死が引き起こされたのかを、明治以降の帝国陸海軍の歴史に基づいて具体的に明らかにした。内容的には前作と重なる部分が少なくないので、本書を読めば十分だろう。
      
 日本は太平洋戦争で約230万人の軍人・軍属を失ったが、死者の6割は戦病死だった。この背景には、正面装備の充実はある程度実現したものの、軍の機械化や自動車化、兵站の整備、軍事衛生や軍事医療の充実が先送りになったことや、下位兵士に犠牲を強いる構造、兵士たちの生活・衣食住の無視ががあったと断じる。「間口ばかりが立派で、奥行きのない軍隊」ができあがったと分析する。
      
 犠牲者の不平等についての言及も貴重だ。多数が戦病死したメレヨン島の戦闘では、将校の戦没率が3割なのに対し兵士は8割に上った。食糧補給についても、将校が優遇され、下士官や兵士とは大きな差があった。

書籍情報

続・日本軍兵士〜帝国陸海軍の現実〜

吉田裕、中公新書、p.264、¥990

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。