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横田英史の読書コーナー

シンギュラリティはより近く〜人類がAIと融合するとき〜

レイ・カーツワイル、高橋則明・訳、NHK出版

2025.5.3  12:19 pm

 AIやバイオテクノロジー、ナノテクノロジーといった技術が切り開く未来を楽観的に語った「予言の書」。歴史を踏まえながら技術の進歩を振り返るとともに、数十年先までの未来を見通す。著者のレイ・カーツワイルは、前著(2005年刊)で「シンギュラリティは近い」と語ったことで知られる未来学者である。その楽観的な考え方は本書でも引き継がれ、シンギュラリティの実現は2035年頃を予測する。前著に比べ10年前倒しとなり、今の赤ちゃんが大学を卒業するころにはシンギュラリティを迎えることになる。AIやシンギュラリティに関心のある方にお薦め1冊である。
     
 筆者は、「情報技術は、人間の可能性を実現する偉大な力と、社会が直面する多くの問題をまとめて解決する偉大な力を与えてくれる」「民主主義の理想の姿をより一層理解できるようになり、生活は指数関数的に向上する。貧困は減少し、収入は増え、寿命は延長する」と楽観論を振りまく。AIなど先進技術の脅威についても論じるが、全体の10%ほどのページで迫力に欠ける。「AIやバイオテクノロジー、ナノテクノロジーの脅威は、核兵器と同様にとてつもなく大きな危険であり抑止的にならざるを得ない」「全体的に我々は慎重な楽観論でいるべき」と説く。
      
 これから10〜20年で起こる可能性のある技術的進歩を手際よくまとめており色々と参考になる。例えば20年後の2045年には、脳の機能のすべてをコンピュータでシミュレートできるようになると予測する。人間の脳はAIとクラウドに接続され、知能が数百万倍に拡張される。脳の拡張に伴って新しい表現手段が開発され、芸術やテクノロジーは現在よりもはるかに豊かになるとともに、想像できないほど深くなる。脳はクラウドにバックアップされ、人間を表す情報のパターンは永久に生き続けることになる。

書籍情報

シンギュラリティはより近く〜人類がAIと融合するとき〜

レイ・カーツワイル、高橋則明・訳、NHK出版、p.448、¥2640

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。