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横田英史の読書コーナー

論点・西洋史学

金澤周作・監修、藤井崇、青谷秀紀、古谷大輔、坂本優一郎、小野沢透、ミネルヴァ書房

2025.4.22  12:15 pm

 西洋史研究において論点になっている事項を網羅的に紹介した書。最新の研究を含め諸説を示しているところに特徴がある。「ローマ帝国の安定的な統合は官僚制のない『小さな政府』で実現された」など新しい知識を得る楽しみの他に、「こんな出来事も評価が定まっていないんだ」「こんな見方もあるんだ」と、教科書とは違う楽しみ方ができる。
     
 世界史の教科書で記載された内容は断定的だが、実際には多種多様な学説が入り乱れていることがよく分かる。産業革命によって労働者の生活が改善されたのかどうかは、経済史で最も長く継続されている論争で、未だに最終決着を見ていないというのも面白い。西洋史への興味が湧く書で、多くの方にお薦めである。
     
 本書は西洋史を古代、中世、近世(16〜18世紀)、近代(18世紀半ば〜20世紀初)、現在(20世紀初〜)に分け、全部で139件の事項について論じる。それぞれの事項は、史実、論点、歴史学的な考察ポイントで構成する。語句の説明や参考文献もきちんとしており初学者にとってありがたい。A4判と大きく、紙質が良いこともあってけっこう重いので、持ち運びに難がある。出勤時や出張時に読むのには向かない。一つの論点を見開き2ページで示しているので、評者のように寝る前に1件ずつ読む進むといった方法が良さそうだ。1件あたりの文章量も適度なのでお勧めの読み方である。
     
 「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と言われる。本書の「世界恐慌」の項目には、覇権国としての自覚を欠く米国の行動が恐慌を拡大し、長期化させたとある。教訓をまったく活かせない人間は、つくづく愚かだと思わざるを得ない。

書籍情報

論点・西洋史学

金澤周作・監修、藤井崇、青谷秀紀、古谷大輔、坂本優一郎、小野沢透、ミネルヴァ書房、p.340、¥3520

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。