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横田英史の読書コーナー

日本軍兵士〜アジア・太平洋戦争の現実〜

吉田 裕、中公新書

2025.4.17  12:12 pm

 太平洋戦争における日本兵の“死”の実像を明らかにした書。異常に多い餓死、30万人を超えた海没死、戦場での自殺、傷病兵への「処置」、特攻、爆弾を抱いて戦車への体当たりなど、日本兵の死の状況は実に凄惨である。このほか、高齢化や体力・体格の低下した初年兵など劣悪化していく補充兵、靴に鮫皮まで使用した被服や装備の劣悪化など兵士を取り巻く環境も併せて取り上げる。先輩兵士による私的制裁など、軍紀の弛緩と退廃の実態も明らかにする。
     
 戦病者による死者が戦闘による戦死者よりも異常に多いのが太平洋戦争の特徴の一つである。実際、病気による死者の比率は50.4%と日露戦争の26.3%の約2倍に達する。歯科治療は日本軍の戦地医療のなかでも特に遅れていたという話も、過度な精神主義のなせるワザだろう。このほか、戦争神経症、戦争栄養失調症、覚醒剤・ヒロポンの多用など、日本兵の置かれた状況は実に厳しい。
     
 筆者は日本兵の劣悪な状況の背景に、異常な軍事思想(精神主義)や後発の近代国家としての後進性などを見るが、現在の災害対策に通じるところが少なくない。「新しい戦前」と言われるなか、いろいろと考えさせられる書である。

書籍情報

日本軍兵士〜アジア・太平洋戦争の現実〜

吉田 裕、中公新書、p.228、¥902

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。