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横田英史の読書コーナー

NEXUS 情報の人類史(下)〜AI革命〜

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社

2025.4.5  12:09 pm

 「サピエンス全史」の著者で知られるユヴァル・ノア・ハラリが「AIの危険性と規制の必要性」を人類史を踏まえて訴えた書。AIを警戒心なく受け入れ、政治・経済・社会のシステムに取り込むことに警鐘を鳴らす。AIに人類が支配される危機は目前に迫っており、規制は喫緊の課題だと強調する。筆者らしい説得力のある論理展開で読み応えがある。
 本書は、コンピュータは印刷機とどう違うのかに始まり、常時オンの監視ネットワークの恐怖、プライバシーの終焉、間違うことが多いAIやコンピュータネットワークに依存する危険性、民主社会の危機、全体主義との親和性、世界を分断する「シリコンのカーテン」などについて持論を展開する。
     
 AIは自ら決定したり、新しい考えを生み出せる史上初のテクノロジーで、技術に対する従来の対応法は通用しない。人間とは違う異質の知能であり、Artificial IntelligenceではなくAilean Intelligenceだと考えるべきだとする。コンピュータベースのネットワークは新たな官僚制であり、人間が生んだ官僚制よりもはるかに複雑、強力で執拗だと断じる。問題はAIには誤りや偏りが多いということ。自己修復性も期待できない。そのAIに意思決定を委ねる危険性を説く。
      
 筆者は「鉄のカーテン」ではなく、AIによって世界が分断される「シリコンのカーテン」を危惧する。蜘蛛の巣(ウェブ)によって世界がつながる期待は外れ、デジタル領域では社会・政治・文化において世界の分断がシリコンのカーテンによって進む。ハラリは4月6日付の日本経済新聞のインタビューに登場するなど、本書の宣伝も抜かりない。上下2巻で600ページを超える大著で読み通すにはそれなりの時間が必要だが、それだけの価値がある。お薦めの1冊である。

書籍情報

NEXUS 情報の人類史(下)〜AI革命〜

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社、p.328、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。