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横田英史の読書コーナー

ユダヤ人の歴史〜古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで〜

鶴見 太郎、中公新書

2025.3.31  12:08 pm

 ユダヤ人の民族や宗教はどういったものか、金融業や商業で活躍する人間が多いのはなぜか、ホロコーストの背景は何か、ガザ攻撃に見られるアラブへの弾圧の背景はどこにあるのかなど、五大陸を流浪したユダヤ人の3000年にわたる歴史を紐解いた書。ユダヤ教、メシア思想、シオニズム、ホロコースト、キブツなどを含め、ユダヤ人に関する基礎的な知識を得ることができる啓蒙書に仕上がっている。
    
 ユダヤ人は激動の歴史を歩んだ。本書は、古代王国の建設から民族離散(ディアスポラ)、ペルシアやローマ、スペイン、オスマン帝国における繁栄、ロシアや東欧での迫害(ポグロム)、ナチによる絶滅計画(ホロコースト)、ソ連やアメリカへの適応、イスラエル建国、中東戦争などをカバーする。バイアスがかかった目で見かねない、ユダヤ人の実像を歴史を踏まえて丹念に解説する。
     
 庶民による反ユダヤ感情の原因は、ユダヤ人を金づるとして利用する権力者とそれを腐敗と考える庶民に、ユダヤ人が挟まれる三角関係に起因するというのが筆者の見立てである。例えばユダヤ人はポーランドの貴族と良好な関係を築いたが、それがユダヤ人は農民の搾取者であるというイメージを形成した。
     
 アラブ人への攻撃性については「概念拡張」が根底にあるという。アラブ諸国からの攻撃や非難に対して、ホロコーストとのアナロジーで考える思考パターンが常態化し、それが執拗な攻撃性を生むと分析する。このほか著者は、ユダヤ人の商才の原点を、ユダヤ教における律法の学習にみる。この学習によって教育が文化資本として根付き、ユダヤ人が金融や商業で強みを発揮する素地となった。

書籍情報

ユダヤ人の歴史〜古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで〜

鶴見 太郎、中公新書、p.336、¥1188

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。