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横田英史の読書コーナー

NEXUS 情報の人類史(上)〜人間のネットワーク〜

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社

2025.3.25  12:06 pm

 「サピエンス全史」「ホモ・デウス」で知られる筆者の新作。今回は人類史における組織・情報ネットワークに焦点を当てる。情報によって人類は発展し、情報を占有する者が支配者になってきたと語る。情報は制御しきれないほどの力を生み出すと断じる。ここでいう情報ネットワークは協力のネットワークを指し、会話に始まり、宗教の誕生と布教、印刷の発明に伴う書籍の流通、情報通信技術(ITC)などにつながる。
     
 「サピエンス全史」で発揮された筆者らしい俯瞰的な視点は本書でも冴え、大きな枠組みの中で情報ネットワークを捉える。人類を支配し続けてきた仕組みを踏まえ、AIをベースにした情報ネットワークの危険性と規制の必要性を説く。AIの出現によって人類は没落しかねないとする。AIの危険性を説く内容は「テクノ封建制」と被るところもあるが、説得力では本書が勝る。
     
 上下2巻で600ページを超える大著で、上巻ではITC以前の情報ネットワークをカバーする。情報とは何かに始まり、物語の重要性、印刷の発明、出版と科学の発展や魔女狩りとの関係、エコーチェンバー現象の発生、文書検索の必要性と官僚制の誕生などに言及する。独裁者や宗教の歴史的事例に基づき、秩序は虚構を通しての方が維持しやすいと喝破する。
     
 筆者が重視するのは、可謬性を受け入れて自らを正すことができる自己修正メカニズムである。自己修正メカニズムが自由民主主義を強いものにしたと強調する。

書籍情報

NEXUS 情報の人類史(上)〜人間のネットワーク〜

ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之・訳、河出書房新社、p.304、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。