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横田英史の読書コーナー

テクノ封建制〜デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。〜

ヤニス・バルファキス、関美和・訳、集英社

2025.3.15  11:53 am

 GAFAMに代表される巨大テック企業が牛耳る社会を「テクノ封建制」と位置づけ、その内容と社会に与えるインパクトを論じた書。GAFAM支配の問題は、単に独占的な優位性にあるのではなく、新たな封建制を打ち立てているところにあると断じる。社会は封建制から資本主義に移行し、資本主義は今や崩壊しテクノ封建制が到来したと語る。GAFAMのサービスを利用するユーザーは、検索やプロンプト、購買などによって無料でデータを提供し、GAFAMの金儲けに貢献する現状をうまく言い当てている。
     
 筆者はGAFAMを領主に、ユーザーを中世ヨーロッパの封建制度における農奴になぞらえる。領主であるGAFAMは、農奴であるユーザーから「レント(地代・使用料・ライセンス料)」を搾り取るだけではなく、無償労働によってを莫大な利益を得ている。クラウド、ビッグデータ、スマホ、EC、IoTで構成する利益誘導の仕組みは、とんでもなく醜くて不公平だと難じる。
    
 筆者はギリシアが経済危機に見舞われた際に財務大臣に就任した経済学者。急進左派らしくリベラルな内容だが、示唆に富む内容が盛り込まれており非常に面白い。米国と中国の対立を、テクノ封建制の枠組みで捉え、クラウド金融を巡る主導権争いとする見方も興味深い。強くお薦めできる1冊である。

書籍情報

テクノ封建制〜デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。〜

ヤニス・バルファキス、関美和・訳、集英社、p.320、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。