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横田英史の読書コーナー

世界を騙しつづける科学者たち 下

ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ、福岡洋一・訳、楽工社

2025.2.28  11:49 am

 政治的な意図をもち、科学的事実を捻じ曲げた科学者(御用学者ともいう)たちの行動を分析した書。上下2巻で計600ページを超える大著だが、翻訳が良く気にならない。下巻では二次喫煙、地球温暖化、殺虫剤(DDT)を取り上げる。著名な科学者が、専門外の畑違いの分野で誤った言説を撒き散らし、業界寄りに世論を誘導した歴史をたどる。絶版なので図書館で借りるか、古本を探す必要があるが、今に通じる内容で一読の価値がある。
     
 下巻で興味深いのは殺虫剤の事例である(他は上巻に通じるところが多い)。DDT禁止に大きな影響を与えたのが、1962年に出版されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」で、DDTなどの殺虫剤の危険性を訴えた。DDTは1972年の禁止され、危険性に関する科学的な決着がついていた。ところが2007年になって蒸し返された。
     
 「カーソンはヒトラー以上の大量殺人者。何百万人ものアフリカ人がマラリアで死んだ」といった言説がインターネットで流布したのである。ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどが記事を掲載する騒ぎとなった。疑念を作り出し、偽情報を流布させる手口が今回も繰り返された。ごく最近の出来事なのに寡聞にして知らなかった。

書籍情報

世界を騙しつづける科学者たち 下

ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ、福岡洋一・訳、楽工社、p.327、¥1900

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。