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横田英史の読書コーナー

ビジネスと人権〜人を大切にしない社会を変える〜

伊藤 和子、岩波新書

2025.2.26  11:47 am

 フジテレビやジャニーズの問題だけではなく、CM制作やSNS発信で人権無視や軽視が繰り返される日本の企業や社会。本書は、国連の指導原則」やEUの「デューデリジェンス指令(CSDDD)」などを参照しながら、人権軽視が著しい日本の政治・企業・社会の問題を指摘する。国連の指導原則では、国家には人権を保護す義務、企業には人権を尊重する責任、人権侵害には救済が求められる。そもそも日本は政府の取り組みが弱く、包括的な人権保護の立法が存在しない。人権を推進する省庁や担当大臣がいないなど散々である(トランプ政権下の米国と五十歩百歩かもしれないが⋯)。
     
 筆者の日本企業に向ける目は厳しい。人権保護に関する理解の決定的な欠如、直接の取引先(ティア1)を超えた取り組みに目を向けない、チェックボックス式の表明的な対応、優先順位付けの誤り、NGOやライツホルダーの問題提起に向き合わないなど散々である。十分な開示を行わない、透明性がなく、説明責任を果たさないことも問題点として挙げる。
     
 本書では、まず「なぜビジネスと人権なのか」について説明し、ビジネスにおける人権意識の高まりを紹介する。次に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を概観し、指導原則がどのように世界で実施されているかについて紹介する。最後に日本企業が直面する人権課題と企業は何をすべきかについて論じる。
 幅広い分野を対象にしているので、新書だとどうしても説明が駆け足になってしまう。本書も例外ではないが、世界の潮流をざっと知るには有用な書に仕上がっている。

書籍情報

ビジネスと人権〜人を大切にしない社会を変える〜

伊藤 和子、岩波新書、p.272、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。