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横田英史の読書コーナー

世界を騙しつづける科学者たち 上

ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ、福岡洋一・訳、楽工社

2025.2.21  11:45 am

政治的な意図をもち、科学的事実を捻じ曲げた科学者(御用学者ともいう)たちの行動を分析した書。上下2巻で計600ページを超える大著である。上巻ではタバコ、オゾンホール、酸性雨、戦略防衛構想(SDI)を取り上げ、どのように世論を誤った方向に誘導したかを明らかにする。2011年に出版された書なので取り上げる話題は少々古いが、世の中を騙すパターンはいまに共通している。絶版の書なので図書館で借りる必要があるが、印象操作に操られないために一読の価値がある。
    
 主役は一般的に“権威”とされる科学者たち。自分の専門外の分野に口を出し“疑惑”をばら撒くのが常套手段だ。パターンは同じなので、同じ権威がタバコとオゾンホールの両方に登場したりする。科学には100%確実はない。何らかの例外は存在する。権威やコンサルタントと称する人たちがはそこにつけ入る。100%確実ではないことを声高に言い募り批判する。
     
 マスコミの態度も御用学者やコンサルタントにとって追い風となる。マスコミは「公正の原則」によって賛成派と反対派の両論を同じ比重で併記する傾向にある。その結果、世論には「論争が存在する」「科学的に結論が出ていない」との印象を残す。

書籍情報

世界を騙しつづける科学者たち 上

ナオミ・オレスケス、エリック・M・コンウェイ、福岡洋一・訳、楽工社、p.313、¥1900

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。