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横田英史の読書コーナー

日本経済の死角〜収奪的システムを解き明かす〜

河野龍太郎、ちくま新書

2025.2.17  11:43 am

 日本経済に巣食う問題を分析するとともに、閉塞状態から脱出する方策を提示した書。生産性が上がっているのに実質賃金が上がらないのは何故か、残業規制など労働法制の問題、日本型雇用性は生き残れるかといった話題を取り上げる。現在の日本経済は“労働者から富を収奪する”仕組みのうえに成り立っており、これが長期低迷の元凶の一つと筆者は断じる。株主至上主義のコーポレートガバナンス改革にも矛先を向ける。株主利益の最大化に重点を置いたことで、人的投資や有形資産投資、無形資産投資がなおざりになり、日本のマクロ経済停滞の要因となったと分析する。
    
 本書はまず、なぜ日本が収奪的な経済システムに転落したのかについて論じ、コーポレートガバナンス改革の罠、対外直接投資の落とし穴、労働市場の構造変化などに言及する。例えば対外投資については、本当に儲かっているのかをデータに基づき分析し、国内経済に恩恵が及んでいないことを明らかにする。労働生産性に比べて実質賃金が低く抑え込まれていることについては、政界や経済界の反応が鈍いことに言及する。長期雇用制の枠内の人は毎年の昇格や昇給によって痛みを感じにくく、為政者の危機感が弱いことが元凶になっているとする。
    
 筆者はメディアでの露出が多いエコノミスト。読者の関心が高い話題を手際よく捌いている。日本経済が置かれた現状に関する分析はクリアで頭の整理に役立つものの、閉塞状態から脱出する方策は力強さと説得力に欠けると感じるには評者だけだろうか。

書籍情報

日本経済の死角〜収奪的システムを解き明かす〜

河野龍太郎、ちくま新書、p.288、¥1034

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。