横田英史の読書コーナー
平等について、いま話したいこと
トマ・ピケティ、マイケル・サンデル、岡本麻左子・訳、早川書房
2025.1.28 12:53 pm
人気の経済学者と政治哲学者による2024年5月の対談をまとめた書。「平等じゃないといけない理由」について、経済や哲学、政治など多角的な点から議論する。米国大統領選でのトランプ有利の状況下での対談とあって、右派ポピュリズムや権威主義的な排他主義の台頭、リベラルや社会民主主義の退潮への危機感が感じられる。議論が噛み合っていない部分もあるが、そこが緊張感を生んでいる。何とも不可解で奇妙でやり切れない世界の政治・経済・社会状況の中、打開のヒントを提示する本書は貴重である。
米国におけるポピュリズムの台頭の一つに、オバマ政権の失政があると指摘する。金融危機の際に金融機関の救済を優先し、金融トップの誰にも責任を取らせなかったことが、憤りと不公平の感覚を生んだ。成功者が傲慢になる一方で、取り残された人たちは、成功も失敗も苦労も自業自得とされ屈辱感を味わった。市民的理想主義の裏切りとなりリベラルを傷つけたとする。
エリートへの反発の大きさは、トランプへの投票行動に表れている。労働者や大卒でない人が、エリートに見下されていると感じ、自分たちの仕事の価値が蔑ろにされているという感覚が蔓延した結果である。リベラルを中心に、不平等を主に高等教育における社会的向上によって解消しようとした野力主義が間違いだったと総括する。
不平等の是正のためには、公平な税制に踏み切り、所得と富に対して傾斜の大きな累進課税を復活させるべきだとする。巨大多国籍企業と億万長者にお金を支払わせる。能力主義の是正のために、一定の実力がある大学志願者に対して「くじ引き」選抜を提案する。お金が政治を左右する状況に対しては、二院制の議会のうち一方の議員をくじ引きで選ぶという提言も面白い。
書籍情報
平等について、いま話したいこと
トマ・ピケティ、マイケル・サンデル、岡本麻左子・訳、早川書房、p.168、¥2200