横田英史の読書コーナー
ヒトラーとナチ・ドイツ
石田勇治、講談社現代新書
2015.12.28 12:35 pm
ヒトラーとナチ・ドイツの誕生から台頭、消滅までを丹念に追った書。ぼんやりと知っていたヒトラーとナチについて、ちゃんと知ることができる。本書を読むと、ファシズムは微笑みを持ってやってくるのがよく分かる。普通なら考えられないようなナチの政策が、ドイツ国民に受け入れられていった。戦後の1951年の調査によると、大戦前のナチ前期を高く評価するドイツ国民が40%を占めたという。日本の政治的・社会的な情勢を思い浮かべながら読み進むのがお薦めの書である。筆者はドイツ現代史・歴史学の枠を遥かに越えて、21世紀を生きる私たちが一度は見つめるべき歴史的事象だと語るが、その通りである。
本書は、ヒトラーの政権運営や社会・世論操作、ホロコーストの根底にあるもの、ホロコーストにいたる過程、ヒトラーが反ユダヤ主義にいたる過程を明らかにする。やはり興味深いのは、ヒトラーとナチ体制が人々を惹きつけた理由である。ナチ体制は、「民俗共同体」という情緒的な概念を用いて「絆」を創りだそうとしただけではなく、国民の歓心を買うべく経済的・社会的な実利を提供したという。
ナチ独裁のポイントとなったのは授権法の成立である。授権法によって立法権が政府に託される。首相は国会審議を経ずにすべて法律を制定できる。しかも政府には、憲法に反する法律を定める権限までも与えられ、憲法を改正したり、新憲法を制定する必要もなくなった。やりたい放題である。結果として見せかけの合法のもと、国家と社会のナチ化が進んだのだ。
基本的権利や人身の自由、住居の不可侵、信書の秘密、集会の自由、結社の自由などの権利が損なわれたのに、国民が抗議の声を上げなかった。なぜか。「非常時に多少の自由が制限されるのはやむを得ない」とあきらめ、事態を容認するか、それから目をそらしたからである。「内政上の後退(少数派の弾圧、人権侵害、市民的自由の制限)の代償にヒトラーがドイツの国際上の力を取り戻すならそれでよいといった判断」。外交的成功こそ、ヒトラー人気の源泉だったと著者は断じる。
書籍情報
ヒトラーとナチ・ドイツ
石田勇治、講談社現代新書、p.368、¥994

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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