横田英史の読書コーナー
クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかに輸出されたか
イーサン・ウォッターズ、阿部宏美・訳、紀伊國屋書店
2013.7.29 12:00 am
米国が心の病気を輸出していることを、香港の「拒食症」、スリランカの「PTSD」、ザンジバルの「統合失調症」、日本の「うつ病」を例に挙げて論じたもの。うつ病の話はなかなか衝撃的だ。米国人は精神疾患の概念を輸出し、その疾病分類や治療法を世界標準にしてしまう。その結果、地域固有の多様な疾患や民族特有の治療法を席巻した。都合の良い事例を取捨選択した気もするが、筆者の主張には耳を傾ける価値がある。知的好奇心を満足させられる良書なので、精神疾患に興味をお持ちの方に薦めたい。
筆者によると、米国で認識され社会に広められたいくつかの精神疾患が、文化の壁を越えて伝染病のように広がっている。例えば香港における拒食症。香港の拒食症には従来、肥満への恐怖はみられなかったし、痩せているのに太りすぎだという間違った思い込みもなかった。ところが米国流の価値観と診断法が入った結果、香港の文化と精神疾患はすっかり姿を変えてしまったという。
日本のうつ病は、製薬会社のマーケティングに大きな影響を受けたと筆者は主張する。日本では元来、憂鬱や愁い、悲しみは辛くても個人の性格を作り上げる要素だとみなされていた。米国なら病的とされる抑うつ感情は、道徳的な意義を持つとともに、自己認識のキッカケだという認識を多くの日本人が共有していた。うつ病はまれな疾患だった。こうした悲しみや抑うつ感に関する日本人の考え方に影響を与え、治療薬を売り込むために、製薬会社はメンタルヘルスの定義を必死に作り変えようとした。その一つが、マーケティング担当者が生んだ「心の風邪」というフレーズだという。それなりに説得力をもつ内容である。
筆者によると、うつ病の根本原因はセレトニンの枯渇にあり、SSRIが脳内で「自然の分泌される」化学物質のバランスを再調整するという理論には科学的根拠がない。科学的事実というよりも文化的に共有されている物語であり、マーケティングが奏功した結果だという。
書籍情報
クレイジー・ライク・アメリカ:心の病はいかに輸出されたか
イーサン・ウォッターズ、阿部宏美・訳、紀伊國屋書店、p.342、¥2,100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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