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横田英史の読書コーナー

ジャーナリストの条件〜時代を超える10の原則〜

ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール、澤康臣・訳、新潮社

2025.4.12  12:11 pm

 米国のジャーナリズムの強さと奥深さが感じられる書。評者のような職種の人間にとって必読なのは言うまでもないが、インターネット/SNS時代に正しい情報で正しく生き抜くためのヒントを含んでおり、多くの方に読んでほしい良書である。2001年の初版から版を重ねて本書が第4版。ジャーナリズムが置かれた環境の変化の大きさが、改版の多さにつながっている。第4版の本書は、トランプ政権の影響とソーシャルメディアの普及を念頭に置き大幅に加筆されたという。例えばプラットフォーマー企業は私利私欲で民主主義を無視しているとして、その罪の重さ、考えの甘さ、傲慢さをやり玉に挙げる。
     
 本書を読んで痛感するのは、デマや誤情報が氾濫するSNSやメディアへの信頼性の低下に、米国のジャーナリストが正対して解決策を模索している点である。ジャーナリズムとは何か、ニュースの目的とは何か、客観性と中立の違いは何か、どのように真実に迫るかについて問い直し、青臭いとも思える議論を繰り広げる。「ジャーナリズムの第一の忠誠は市民に対するものである」とし、その議論は高い使命感と倫理観に裏打ちされて実に熱い。マスゴミと称され、知見も見識もないコメントを垂れ流す日本のメディアと比べると彼我の差はとても大きい。
     
 ニュースの客観性についての姿勢は注目に値する。客観性とは根拠を集め、吟味し、理解する手法(プロセス)であって、記事としての内容ではないと語る。客観性があることは中立であることを意味しないと、筆者は繰り返す。日本のメディアが客観性と中立性を混同し、議論の分かれる論点をとことん突き詰めることを避ける姿勢とは大きく異なる。
     
 これまでのメディアの在り方に対する反省は正鵠を射ている。編集部門が高齢の白人で占められる“ボーイズクラブ”と化し、多様性が足りなかったとする。記事は長く洗練されており、大学を出ていないとついていけないものが多かった。自分たちが取材するような相手に向けて文章を書いており、一般市民に寄り添ってこなかったと分析する。ちなみに事実確認の責任を放棄した生インタビューはパフォーマンスでしかなく、ニュース取材とは言えないとする見解は強く同意する。

書籍情報

ジャーナリストの条件〜時代を超える10の原則〜

ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール、澤康臣・訳、新潮社、p.544、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。