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2010年

2003年12月

それでもヤクザはやってくる〜暴力団vs飲食店経営者のあくなき闘い〜
宮本照夫、朝日新聞社、p.286、\660

2003.12.31

 川崎の歓楽街でスナック「ナポレオン」などを経営する筆者が、「暴力団の入店お断り」を貫く物語。次々と降りかかる難題、悲喜こもごもの人生模様などに彩られた興味深い内容である。今回は芸能人との付き合いについての記述もある。ある程度、誰のことを言っているのか分かる仕掛けになっている(ただし、いずれも昔の芸能人の話ではあるが・・・)。第1作「ヤクザが店にやってきた」と同様に軽妙な語り口で、ついつい引き込まれる。気楽に読めるので暇つぶしにはピッタリである。お急ぎの人は、最終章の「きほんのき」を読むだけでも十分。筆者の講演を収録したものだが、内容が詰まっている。

 

てっぺん野郎〜本人も知らなかった石原慎太郎〜
佐野眞一、講談社、p.496、\1900

2003.12.30

 500ページ近くの分量がある、佐野眞一らしい評伝に仕上がっている。副題の「本人も知らなかった石原慎太郎」は、納得できるタイトルである。感動するほど、資料や人物を実によく調べている。さすがである。どこかの書評には、石原慎太郎の父親「潔」の記述が冗長と書いてあった。確かに500ページと長いので、省けるといえば省ける部分だろう。しかし、けっして無駄ではない。石原慎太郎の原風景を知る上では不可欠な要素と考えられる。佐野の石原慎太郎に対する評価は、実に辛らつである。普通に考えれば、政治家失格、小説家失格の烙印を押しているように読める。これだけの辛らつな評伝を書けるのは、しっかりした裏づけによるものいえる。ちなみに佐野は石原慎太郎自身へのインタビューも行っている。全編を通じて感心するのは、石原慎太郎の友人だった江藤淳の人物評の確かさである。

 

クリティカルチェーン〜なぜ、プロジェクトは予定通りに進まないのか?
エリヤフ・ゴールドラット著、三本木亮訳、ダイヤモンド社、p.393、\1600

2003.12.27

 TOC(制約条件の理論)で有名なエリヤフ・ゴールドラット氏の4作目。1作は出世作の「ゴール」である。本書では、TOCをプロジェクトマネジメントに適用する方策を、例によって小説仕立てで説明している。今回の舞台は、大学のMBAコースの授業である。モデム会社から派遣された3人が、「製品サイクルの早いモデム開発プロジェクト」について問題解決に挑むという筋立てである。結論は、「ボトルネックとなるリソースを優先して、全体のスケジュールを立てる」ということである。凄く面白いという内容ではないが、いつもながら説得力のある語り口(事例の提示の仕方)はさすがである。ちなみに、本書を読むと「プロジェクトマネジメント」を「プロジェクト管理」と翻訳してはいけないことがよく分かる。

 

投資ファンドとベンチャーキャピタルに騙されるな
〜ベンチャーキャピタリストが書いた真実

門脇徹雄、半蔵門出版、p.190、\1700

2003.12.23

 EIS発行人の中村さんが推薦していた本。しかも門田さんから「書評せよ」との指令が飛んだ。ベンチャーキャピタルであるジャフコ出身のベンチャーキャピタリストが書いた業界告発本。実名(そうでない部分もある、たぶん裏がとれないためと思われる)での批判なので迫力がある。日本のベンチャーキャピタル業界の後進性が金融に詳しくない私にでもよく分かる。確かに読めば読むほど、妙な業界である。「付き合ってよいベンチャーキャピタル、付き合ってはいけないベンチャーキャピタル」、「ベンチャーキャピタルが投資したい魅力がある経営者像、ベンチャーキャピタルが投資したくない魅力のない経営者像」という一覧は面白い。ただし筆者の意欲はよく分かるが、書籍としてのできは今一歩である。文章というよりは覚書に近い感じである。

 

ルポ 解雇〜この国でいま起きていること〜
島本慈子、p.212、\700

2003.12.13

 視点が、いかにも岩波書店らしい新書本。雑誌「世界」に掲載されていた、「解雇のルール」の連載をまとめたもの。審議中の労働基準法の改正案を基軸に、改正案の問題点を挙げながら、不況にあえぐ日本で起こっている解雇の実態に迫っている。この手の本にありがちだが、裁判所や企業、政治の在り様に暗澹とさせられる内容である。

 

リスク・マネジメントの心理学〜事故・事件から学ぶ〜
岡本浩一、今野裕之編著、新曜社、p.320、\3500

2003.12.08

 学術書に近い本なので少々高いが、お薦めである。JCOの臨界事故、一連の雪印の不祥事(雪印乳業の食中毒事件、雪印食品の牛肉偽装事件)、化学プラントの数々の爆発事故など、事件や事故などの原因を詳細に分析している。同時に、誤った決定を下す過程(意思決定のプロセス)に迫っている。特に意思決定のプロセスでは、個人の問題と組織の問題の両方について分析を加えている。事件や事故が起こったときに、無責任に「叩きやすいやつを叩く」という姿勢とは無縁の良書である。好感が持てる。JOCや雪印の問題は、単にこれらの企業だけではなく、日本の社会全体に関わる大問題であることが、本書を読むとよく分かる。所々に出てくる指摘は、グサっと胸に突き刺さる。最近ではロケットの打ち上げに失敗した“事件”があったが、ミスと簡単に片付けるのではなく、徹底的に原因を究明し、リスク・マネジメントの観点から体系立って考える姿勢が求められている。

 

Fumbling The Future
Douglas K.Smith and RobertC.Alexander、toExcel、p.274

2003.12.01

 久しぶりに原書を完読。何ヶ月かかったか覚えていないほど長い時間かかった。本書は、XeroxのPARC(Palo Alto Research Center)の物語。パソコン時代の基盤となる数々の発明を生みながら、それを商用化できなかったPARCの歴史を追っている。サイド・ストーリとしてXeroxの歴史にも触れている。これはこれで、知らない話が多く面白い。ビットマップ・ディスクプレイ、マウス、イーサネット、レーザープリンタなどの発明を生み出したPARCの先見性は確かにすごい。本書でもPARCの最初の5年は大成功と位置付けている。一方で、それを商品として成功に導けなかった社大企業Xeroxの問題点は、大企業ほど守りに入り、先進的な技術を育てるのに向かない「イノベーションのジレンマ」そのものである。レーザープリンタの将来性に気づかなかった例など最たるものである。若干冗長で退屈な部分もあるが、ITやパソコンの歴史を振り返る上で有用な本である。忙しい人は19章を読むだけで十分かもしれない。

 

2003年11月

若者が<社会的弱者>に転落する
宮本みち子、洋泉社、\720、p.184

2003.11.29

 若者が置かれた社会的環境の変化、現状の問題点を論じた書。内容は悪くない。裏づけの資料も多いので、そこそこ充実した本である。妙に若者よりで少々変わっている部分はあるが、全体としてさして目新しい論点がある訳ではない。ただ、編集者の観点から見ると最低に属する本である。みっともない誤字はいくつもあるし、句読点の位置まで間違っているのには少々驚かされる。滅多にお目にかかれない出来である。図が豊富なのはいいが、なぜか参照もない。これでは効果半減である。さらに、図が支離滅裂な場所に置かれていたりする。出版社の問題なのか、編集者の問題なのかは分からないが、これでは著者が気の毒な気がする。

 

神様の墜落〜<そごうと興銀>の失われた10年
江波戸哲夫、新潮社、\1500、p.232

2003.11.24

 セブン-イレブンの鈴木敏文の著書の後に読む本ではなかったと反省させられてしまう。それほど彼我の差は大きい。経営指標とはまったく無縁で、ほとんど信じられないくらいの前近代的な経営だった「そごう」。そのドンブリ勘定ぶりと、経営層の脆弱ぶりは驚くばかりである。その頂点に立つのは、元会長の水島廣雄。その水島を、生い立ちや興銀時代から丹念に追っている。すごく面白いという本ではないが、歴史の証言といった意味で貴重な内容になっている。水島は積極的な店舗展開で、百貨店業界トップとして一時は時代の寵児になったが、その基盤がいかにも脆かったかがよくわかる。持ち上げては落とすのはマスコミの常とはいえ、その落差は本当に大きい。

 

商売の創造
鈴木敏文、講談社、\1400、p.203

2003.11.22

 「商売の原点」と同じく、社内のミーティングで喋った内容をまとめた書である。活字は大きいし、ページ数も多くないが、内容は充実している。示唆に富む言葉が多く、読み応え十分である。「商売の原点」と「商売の創造」を併せて読まれることをお薦めする。当たり前のことをキチッと実行し、変化を恐れないこと、挑戦の大切さ、経験にだけ頼ることの危険性が実によく分かる本になっている。セブン-イレブンでの実績があるだけに説得力に富む。常に勝者であり続けることは不可能だが、現時点で旬に近い経営者であることは確かであろう。

 

救急精神病棟
野村進、講談社、\1700、p.378

2003.11.18

 幕張にある千葉県精神科医療センターに関するノンフィクションである。救急外来を訪れる患者の様子、入院後の様子を克明に描いている。ショッキングな内容も多いが、目をそらしてはいけないという感覚に襲われる。日本の精神病医療に関する問題点を数多く指摘している。特にマスコミの記述にみる偏見、不正確さ、思い込みの酷さへの批判は耳が痛いが、非常に勉強になる。日本の入院患者のほぼ四人に一人が精神病患者やという指摘には驚かされる。

 

凄絶な生還〜父子二代にわたる“死の衝動”に克った僕〜
竹脇無我著、上島国利監修、マキノ出版、\1300、p.174

2003.11.15

 「だいこんの花」「大岡越前」といったテレビ・ドラマでお馴染みの竹脇無我。その有名俳優の「うつ病」との戦いをまとめた書。子どもの誕生日に自殺の道を選んだ父親の影を負った竹脇の心情がよく出ている。凄絶というタイトルが内容をよく表している。体の具合が悪くなっても、自分に言い訳しながら心療内科を避けつづける心理状態などをきめ細かく書き込んでいる。所々に写真が挿入されているが、病気のときの写真にドキッとさせられる。

 

激動を奔る〜伝説の営業マンからのメッセージ〜
高柳肇著、中島洋編、日経BP社、\1500、p.293

2003.11.14

 買収される側の社長が、買収した側の社長に就任する。こんな逆転人事を2度も成し遂げた高柳氏の営業人生を綴った書。高柳氏の足跡はIBMに始まり、タンデム、コンパック、そしてHPとなる。タンデムとコンパック時代は日本での上場寸前までいったところで買収されている。タンデムはコンパックに、コンパックはHPに買収されたが、そのたびに買収した側の社長として勝ち残った。実に摩訶不思議な足跡である。コンパック時代にインタビューをしたことがあるが、夕方のインタビューということもあってか、一通り終わったあとはビールを飲みながらの歓談となった。長い記者人生であるが、こんな社長は珍しい。人に強いタイプの経営者である。ただ仕方がない面もあるが、奇麗ごとで全編通しているところが物足りない。社長として勝ち残る術や営業のドロドロしたところなど、本書では触れられなかった部分は山のようにあると思われるが・・・。ちなみに、日経BPの中島洋編集委員が注釈をつけており、行間をうまく補っている。

 

私はあきらめない
〜世界一の女性CEO、カーリー・フィオリーナの挑戦〜

ジョージ・アンダース 著、後藤由季子、宮内もと子 訳、
アーティストハウスパブリッシャーズ、¥1600、p.345

2003.11.10

 パソコンの低価格戦争で先陣を切り、業績面で復活著しいHP。そのHPに米ルーセントから乗り込み指揮をとるカーリー・フィオリーナに焦点を当てた書。米コンパックとの合併の是非を問う株主投票の経緯など、興味ぶかい内容が満載である。実に面白い。BusinessWeekで書評が出たときに原書を購入したが、フィオリーナのチョーチン本かと思って放置していた。翻訳版を雑誌の書評に使うことになり急いで読んだが、予想は良い方に裏切られた。HPといえば「HPウエイ」で有名で、日本企業よりも“日本的”といわれ、その関連の本も多い。その牧歌的なHPに、マネジメント能力に長けた管理者であるフィオリーナが乗り込んで起こった社内の混乱を、筆者は活写している。クライマックスは、コンパック買収を巡る委任状争奪合戦と株主総会、そして、その後の法廷闘争である。法廷闘争にも、まるで映画のようなドラマがあるが、それは読んでのお楽しみである。

福祉を変える経営〜障害者の月給1万円からの脱出〜
小倉昌男、日経BP社、p.223

2003.11.02

 ヤマト運輸の社長だった小倉昌男が、やまと福祉財団理事長としての思いを吐露した書。かねてから、「障害者が働いて得る月給が1万円なんて、ありえない話」という持論を唱えていた小倉氏。その小倉氏が、障害者自立のために立ち上げたパン屋や喫茶店、炭焼きといった事業と、福祉について全国で実施している講演会(セミナー)の概要を紹介している。「持つものにおカネが流れ、持たざるものにはおカネが流れない」という、日本の福祉制度の不可思議さについての記述も、現場から出た感覚だけに説得力がある。ヤマト運輸と官僚との戦いといった白熱の記述こそないが、十分読ませる内容となっている。読み進むうちに、この本の前に読んだ鈴木敏文氏の著書と、イメージが非常によく似ていることに気づいた。いずれも現場感覚溢れる著作で、頭だけで考えた根無し草の類書とは一線を画している。

2003年10月

商売の原点
鈴木敏文、緒方知行編、講談社、\1400、p.205

2003.10.30

 セブン-イレブン会長でイトーヨーカ堂の会長でもある鈴木敏文氏が、社内のミーティングで喋った内容をまとめた書。セブンで培った経営哲学を述べている。具体的には、セブンの店舗経営指導員「OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)」やOFCの上長であるディストリクトマネジャーなどを前にしたミーティングの速記録をもとに、編者である緒方知行氏が2冊の単行本に仕上げた。その一方が本書である(もう1冊は「商売の創造」)。社内での話とあって、一般の経営書にはない迫力を伴っているのが特徴である。述べられていることは、ごく当たり前である(もちろん、当たり前を当たり前に実行することが難しいのだが・・・)。しかし、その当たり前のことを述べるときに引用する事例が優れもので、説得力を伴っている。なかなか読ませる内容である。

ケータイをもったサル
正高信男、中央新書、\700、p.187

2003.10.22

 サル学者の目からみた日本の風俗論・家族論である。けっこう面白いが、表題で思い浮かべるよりも、はるかに真面目な本である。定量的な裏づけもあり、読み応えもある。表題の「ケータイ」は、あくまでキャッチ。確かに電車になかで何人もが一心不乱に携帯電話をみつめている(操作している)サマは実に異様である。サルかどうかは別にして、バカげた姿であることは間違いない。筆者は、ケータイでいつでも他人とつながりたがる日本人は、「成熟した大人になることを拒否している」「関係できない症候群」「人間らしさを捨て、サルに退化してしまった」と断言する。ちょっと前に増殖した、生殖を拒否しているようなガングロも同じ根っこをもった現象だろう。最近のばかげたニュースの数々をみていると、サル以下という気もするが・・・・。

麻布中学と江原素六
川又一英、新潮社、\680、p.185

2003.10.15

 屈指の進学校となっている麻布高校を設立し、東洋英和にも大きな影響を与えた江原素六について扱った書。江原には政治家やキリスト教の布教者といった側面があるが、本書は教育者とくに麻布高校を軸に足跡をたどる。三井物産の大番頭で、日経新聞の生みの親である益田孝との関わりにも触れている。自由闊達な麻布高校の校風がどういった経緯で生まれたかを丹念に追っている。しかし、麻布高校や江原素六に興味をもつ人がどの程度いるのだろうか? 出版経緯が気になるところである。

年金大崩壊
岩瀬達哉、講談社、\1600、p.249

2003.10.08

 週刊現代に連載されていた記事をまとめたもの。国会やテレビなどでも扱われることが多くなった「年金のデタラメ運用」を糾弾している。年金制度がいかに官僚たちによって食い物にされているかを、取材と資料によって白日の下にさらしている。週刊誌の記事をまとめた単行本なので、記述に若干のダブリ感があるが、それを補って余りある面白いドキュメントに仕上がっている。なお筆者は、官僚の問題について数々の記事を書いている岩瀬達哉である。相変わらず筆鋒は鋭い。

『原因』と『結果』の法則
ジェームズ・アレン、坂本貢一訳、サンマーク出版、\1200、p.95

2003.10.05

 ベストセラーと称されている本。奥付をみると4月発行で、8月時点で13刷りとなっているので確かに売れているようだ。帯には、「聖書に次いで、1世紀以上ものあいだ多くの人々に読まれている」「ナポレオン・ヒル、デール・カーネギーなどが最も影響を受けた本」と書かれている。自己啓発のバイブルらしい。しかし、正直な感想は「本当かよ!」である。とても人々の琴線に触れるような内容とは思えないので、とても不思議である。書いてあることは真っ当である。悪くはない。ただ当たり前すぎて、何の感慨も湧かない。読む方の心が汚れているということなのだろうか・・・・。ちなみにクルマのタイヤを交換している暇つぶしに購入し、喫茶店で30分ほどで読めた程度の本である。単位時間あたりに直すと、1200円という定価は少々高い。

2003年9月

ヤクザが店にやってきた:
暴力団と闘い続けた飲食店経営者の怒涛の日々

宮本照夫、朝日新聞社、\660、p.263

2003.09.19

 新刊のときに話題になった本(当時は文星出版が出版)。ずっと気になっていたが、文庫本化されているのを見つけて購入。川崎でスナックや焼肉店を経営している著者が、暴力団と対峙した日々を綴っている。著者の店は、暴力団の入店禁止を徹底している。世話になった人の紹介でも入店を拒否する徹底振りである。ただし、本書には決定版というノウハウが書かれている訳ではない。当たり前のことを、強い意志で、当たり前にやっていく大切さが書き込まれている。

 

ターンアラウンド:ゴーンは、いかにして日産を救ったのか?
デビッド・マギー、福嶋俊造訳、東洋経済新報社、\1800、p.302

2003.09.17

 原書が出たときにすぐに購入したのだが、ツン読状態にしているうちに翻訳本が出てしまった。Amazon.comの書評などを読むと、けっこう厳しい評価が出ているが、悪い本ではないというのが読後感である。ゴーンの改革を振り返る上で、格好の書であろう。あまりに持ち上げすぎという気もするが、よくまとまっているという印象である。もっとも、最近、日本経済新聞から本人のインタビューを軸にした本が出たので、一番の本かどうかは分からないが・・・。

問題解決のメタ技術●素人のように考え、玄人として実行する
金出武雄、PHP、\1500、p.286

2003.09.08

 カーネギーメロン大学(CMU)の教授で、ロボットや画像処理で有名な金出教授の本。もう10年以上も前になるが、CMUに取材に別件で行ったときに立ち寄ったことがある。本が乱雑に置かれていたが、けっこう広い部屋だったと記憶する。本書は、書店の目立つところに平積みになっていることが多い。出版社も書店も力が入った本といえそうだ。内容は所々に面白い指摘がある。特に、日本と米国の違いや“発想法”に言及した部分は、鋭い指摘が多く役に立つ。特に日本の学生が細部や知識にこだわり、本質に迫る力が弱いという指摘は実によく分かる。学生にとどまらず、世の中でよく見受けられるところである。知識が知恵につながらず、応用がきかない事例がよく見受けられる。また、できるだけ物事をシンプルに考え、無用に複雑にしないという指摘も納得させられるところだ。

2003年8月

快商・出光佐三の生涯:難にありて人を切らず
水木楊、PHP研究所、\1500、p.270

2003.08.30

 出光興産を起した出光佐三の生涯を追った書。水木楊の評伝では、田中角栄や松永安左エ門をすでに読んだ。これで3作目である。まずます面白い内容に仕上がっている。本書は全編、明治人の気骨があふれる出光の人となりが良くわかる内容になっている。国家や官僚、規制、常識と闘った出光の人生がよく分かる。同時に、こういう人物を現代に求めることの空しさを教えてくれる本でもある。

 

社長をだせ! 実録クラームとの死闘
川田茂雄、宝島社、\1400、p.239

2003.08.27

 カメラ・メーカーのお客様窓口の責任者を20年余り務めた筆者が、その経験をもとに書き綴った書。ベストセラーのランキングにも顔を出している。それもむべなるかなといった印象の本である。「いかにもありそうな」「そんなことあるの?」といった話が並んでいる。筆者は、解決できなかったクレームはなかったと豪語する。その要諦は、誠心誠意、言うところは言い、反省すべきところは反省するという真摯な姿勢である。実録とあって迫力ある話が多い。インターネット時代のクレーム処理の話はなかなか役に立つ。

 

検証●経済失政:誰が、何を、なぜ間違えたか
軽部謙介、西野智彦、岩波書店、\2400、p.381

2003.08.22

 岩波書店の「検証」シリーズの第1作。他の2作は読んでいるので、原点に戻ったことになる。本書は1996年から97年頃に、日本の政府と官僚はなぜ経済政策を間違い、せっかく回復しかけていた経済を奈落の底に突き落としたのかを丹念に追っている。当事者へのインタビューや資料をもとに検証しているので、なかなかの迫力である。官僚たちの思惑と計画を、簡単にひっくり返す社会的な動きを描いている。それぞれに論理的な適合性があると思われる政策が、合成されることで誤った方向に国を導いていく「無謬の合成」の過程や、官僚たちの限界が活写されている。そのときどきに官僚や首相、日銀総裁が語った言葉には、いろいろ考えさせられるものが多い。充実のノンフィクションである。

 

バカの壁
養老孟司、新潮社、\680、p.204

2003.08.15

 大ベストセラーである。15日付の新聞によると、110万部という大変な部数(たぶん刷った部数で、売れた部数ではない)になっている。へそ曲がりゆえ買うつもりはなかったのだが、取材先の人に薦められて読み始めた。解剖学者として有名な養老孟司がしゃべった話を、編集者が新書化したもの。おかげで分かりやすい文体になっているが、反面話が散漫になっている面は否めない。内容はそこそこ面白い。都市化した人間が、根無し草ゆえに、唯一絶対のものを求めるという主張には納得させられる。唯一絶対なものを信奉するところから、一神教的な風潮が顕在化すると筆者は述べる。確かに、常軌を逸した一方的な主張がはびこっている点など思い当たるふしは多い。「話せば分かる」という姿勢を最初から放棄している姿勢は、自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断する、これぞまさに「バカの壁」である。

 

現代日本経済政策論
植草一秀、岩波書店、\2500、p.330

2003.08.13

 2001年に出版された本なので、1万円割れしている株価の現状を考えると、ちょっとズレを感じる。ちなみに、本書では扱っている範囲では1万円を軽く超えている。ずっとツン読状態だったが、出版当時かなり話題を呼んだ本である。優れた経済書と薦められることがある。論点は一つである。日本政府は景気刺激策を採るべきで、それが財政赤字削減と財政再建にもつながるというもの。歴代の内閣は小渕内閣を除いて、すべて政策を誤ったという主張である。ただし、繰り返し出てくる「筆者はちゃんと主張していたのに・・・・」というフレーズは、被害者的意識と後講釈的なところがあり気になる。ちなみに政策論というタイトルの本らしく、後半部分には色々な政策が書かれているが総花的。あくまで付け足しといった感が強い。

 

検証●経済暗雲
西野智彦、岩波書店、\1800、p.261

2003.08.06

 時事通信社記者の西野智彦による「検証」シリーズの第3弾。実に良く出来ている。日本の場合、歴史に残すべき出来事でも当事者の証言や資料が得られない場合が多いが、「検証」シリーズは異色のできである。事実を押さえて日本の「失われた10年」に迫っている。これまで上梓された「経済失政」、「経済迷走」では1996年〜199年の経済失政を丹念な取材で検証していたが、本書はそれ以前の1992年から1995年を扱っている。10年ちかく前の話のため、インタビューではなく、ドキュメントにより検証に重きをおいたという。いずれにせよ、官僚主導による経済政策の過程の裏側がよく分かり、読み応え十分である。官僚たちの思惑と世論とのギャップによる迷走など、官僚たちの「無謬の合成」が形作られる過程が実によく分かる。一読をお薦めする。

 

2003年7月

脱カリスマの経営
吉田忠裕、東洋経済新報社、\1500、p.239

2003.07.30

 YKK(吉田工業)創設者・吉田忠雄を継いで、YKK社長に就いた著者による経営書。カリスマ経営者だった父をいかに乗り越えたか、カリスマの限界はどこにあったかなどを綴っている。MBAをもつ筆者の国際感覚がよく出ている書。東洋経済のミッション経営大賞を受賞した本だが、意外につまらなかった。

 

理系白書:この国を静かに支える人たち
毎日新聞科学環境部、講談社、\1500、p.312

2003.07.19

 毎日新聞の連載を単行本化したもの。かつて「理工系教育のいま」とかいう本があったが、本書の方が幅が広い。理系離れといった教育問題だけではなく、地位、報酬、研究予算、生活、恋愛といったテーマを挙げて、書き込んでいる。そこそこ面白いが、ちょっと冗長かなという気がする(新聞で連載だと気にならないが、1冊になるとさすがにダレる)。日本を支えている理科系の人間が、報酬や地位の面で、いかに正当に評価されていないかがつづられている。生涯の賃金格差は5000万円という話も出ている。ほぼ常識となっている理科系の受難だが、定量的に押さえられているだけに救いがないともいえる。

 

ソニーを創った男●井深大
小林峻一、WAC、p.323、\1600

2003.07.12

 ソニーの創設者・井深大の評伝である。誕生から亡くなるまでを丹念に追っている。ソニー創設前後からの井深の動静については色々な書籍に出ているが、著者によると本格的な評伝はこれまでなかったという(井深自身は、日経新聞の『私の履歴書』を執筆している)。ソニーに関する書籍は何冊もこれまで読んでいるが、確かに成人する以前の井深に関しての記述は多くない記憶がある。その意味では、井深の家系や家庭生活、姻戚関係については、へ〜っと思うような話題がいくつかちりばめられている本書は貴重。

 

窒息するオフィス:仕事に強迫されるアメリカ人
ジル・A・フレイザー、森岡孝二監訳、岩波書店、p.270、\2300

2003.07.05

 ネーミングが見事な本である。ついつい買ってしまった。ちなみに原題は「ホワイトカラー搾取工場」とけっこう露骨(中身はこっちの方がピッタリだ)なタイトルである。日本では邦題のほうが読者は増えるだろう。現在の米国企業がいかに従業員にとって不幸に溢れているかを、これでもか、これでもかと書き込んでいる。ちょっとバイアスがかかり過ぎの面があるが、米国社会の一面を確実に言い表しているともいえる。いかにも岩波書店の本らしい内容である。筆者が書いているように、あまりに忙しすぎる企業社会の弊害、IT機器の問題、リストラの問題は間違いない。共感をもって読める部分も少なくない。米IBMや米インテルといった成功企業として持ち上げられる企業が、本書では悪の帝国のようにやり玉に挙がっている。こういう見方もあるのかと思わせる。特にIBMのガースナーやインテルのグローブは完全に悪者扱いである。ちなみに、筆者のお眼鏡にかなった企業はソフトウエア・ベンダーのSASインスティチュートである。

 

2003年6月

動機
横山秀夫、文春文庫、\476、p.312

2003.06.29

 このところ嵌っている横山秀夫の短編集(あまり短くもないが・・・)。4本の短編のうち2本「動機」と「逆転の夏」はテレビ・ドラマ化されている。前者は上川隆也、後者は佐藤浩市の主演だったが、いまでも印象に残っている。テレビ・ドラマ化されている2本の短編は、さすがに納得できるミステリに仕上がっている。逆に後の2本は、それほどでもない。警察小説を得意技としている筆者だが、それから外れているためかもしれない。ちなみに筆者は新聞記者だった経歴をもつが、それを生かしたと思われる「ネタ元」の出来はそれほどでもない。

 

人質交渉人:ブルッサール警視回想録
ロベール・ブルッサール、草思社、\2200、p.293

2003.06.24

 人質交渉人といえば、サミュエル・L.ジャクソンとケビン・スペイシーの映画を思い出す。好きな映画の一つである。題名に引かれて購入した。筆者はフランス警察で人質交渉人として活躍した人。本書は映画ほど劇的ではなく地味ではあるが、なかなか面白いノンフィクションに仕上がっており、けっこう読み応えがある(訳者によると、原書はもっと長いらしい)。警察、犯人、マスコミとの虚々実云々の駆け引きが書き込まれている。誘拐犯との交渉の現場、犯人追跡の模様が描かれている。興味ぶかいのはオランダで起こった日本赤軍の人質占拠事件。日本赤軍や人質の交換として釈放を要求された日本人とのやり取りは、実に興味ぶかい。。現場の人間しか知りえない話があり、「へ〜っ」と驚いてしまう。“歴史的”犯罪者のジャック・メスリーヌとのやり取りも面白い。メスリーヌを追い詰め射殺するまでの記述は実に迫力がある。

 

やればわかる、やればできる:クロネコ宅急便が成功したわけ
小倉昌男、講談社、p.301、\1600

2003.06.17

 クロネコヤマトの小倉昌男氏が、社内報につづった短文をまとめた書。語りかける相手は社員である。ヤマトに対する危機感が伝わってくる。当たり前のことを当たり前に感じ、行動することの大切さを教えてくれる本である。ただ持ち前の歯切れの良さはあるが、何せ一つひとつの文章が短いので、読んだ後に物足りなさが残る。また社内報ということで、ヤマトの社員なら共有できる感覚が、よそ者の読者には伝わりにくいかもしれない。出典が古いのも勢いを感じられない理由の一つになっている。

 

『誰でも社会へ』:デジタル時代のユニバーサルデザイン
関根千佳、岩波書店、\1800、p.261

2003.06.12

 実に面白い本である。著者は元・日本IBMのSE。IBMを退職後、ユニバーサルデザイン関連の仕事を手がけるユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)を創業した。IBMの社内情報誌やさまざまな雑誌、Webに執筆した記事を集めた書なので統一感はあまりないが、その分を補って余りある内容である。特に前半部は共感をもって読めるし、ユニバーサルデザインに関する考え方については「目からうろこ」の指摘が少なくない。日本IBMで米国滞在したときの体験談は、彼我の差がよくわかるが内容になっている。米国社会の障害者との関わりあい方には感心させられるとことが多い。参考になる。後半部は少々文章が固くなっているのは残念である。

 

半落ち
横山秀夫、講談社、p.297、\1700

2003.06.09

 なぜかこのところ講談社が続いている。昨年のミステリー関連の賞「このミステリーがすごい」と「週刊文春のミステリーベスト10」を受賞した犯罪ミステリーである。横山秀夫はTV番組で知っていた作家。緊迫感あふれるストーリを書く作家という印象である(小説を読んでいなかったので想像の上だが)。連れ合いが図書館から借りた本で、今回初めて読んだ。横山のミステリー小説は、予想にたがわず面白い内容である。畳み込んでいくような筆致には引き込まれる。最後のクライマックスの部分は、ちょっと物足りない感じが残るが、それでも面白い(クライマックスの部分は、林真理子も批判していた)。TV化されるのが、いまから待ち遠しくなるような小説である。

 

食肉の帝王:巨富をつかんだ男 浅田満
溝口敦、講談社、p.261、\1600

2003.06.07

 狂牛病が発生し食肉の廃棄・焼却の問題が起こったときに、不正に巨額の補助金交付を受けたのではないかと、かなり話題を集めた浅田満を扱った書。浅田満率いるハンナンが、不自然に大量に牛肉を処分したことが問題視された。当時、アエラなどにかなり書かれた人物なので、記憶している方もいるかもしれない。あるいは鈴木宗男との関係も、いろいろなところで書かれた人物である。食肉業を軸に、建設業などで一族で巨大な富を蓄えているとされる。同和、公共事業、政治家、暴力団といった日本の影の部分との関係を解き明かしている。本書は週刊現代に連載され、2003年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受けている。実際、裏の社会に通じる取材は困難を極めたと想像されるが、実に良く調べている。

 

大転換思考のすすめ:成功する企業、活躍する人材
畑村洋太郎、山田真次郎、講談社、p.196、\700

2003.06.02

 この書評欄でも何度も取り上げている「失敗学」の畑村教授の新著。金型のベンチャーとして知られるインクス社長の山田真次郎との共著である。1冊本を読み終えたあと、手元に読むことがなかったときに購入した。何かの雑誌で推薦されていたことが大きく影響している。書評の威力ということか・・・。今回は失敗学ならぬ、発想法について記述している。けっこう警句もあり読ませるのだが、意外に記憶に残らない。2人で書き分けたことが印象を薄くさせている一因かもしれない。本書で述べられていることは、しごく真っ当である。

 

2003年5月

戦争広告代理店
高木徹、講談社、p.316、\1800

推薦!2003.05.31

 出版されたのは昨年だが、今年最大の収穫になるかもしれない。実に面白い。マスコミの一員として考えさせられる内容に富んでいるし、迫力満点である。著者はNHKのディレクタである。ボスニア紛争の裏で、米国の広告代理店が暗躍していたことを丹念な取材で明らかにしている。ワシントンポストのウッドワード記者の活動を髣髴とさせるところがある。非常に迫力のあるドキュメンタリである。広告代理店によって、マスコミの弱点を見事に突かれ、世界の世論が巧妙に操作されていたかが分かる。同時にボスニア紛争が日本からは遠い存在だったということを改めて認識させられる書でもある。日本の外交機関のPRに対する認識の薄さ、軽さもよく分かる。

 

非連続の時代
出井伸之、新潮社、p.234、\1500

2003.05.24

 ソニー会長の出井氏の講演を集めた書。出版直後に購入していたが、今一歩食指が動かず、ずっと放置していた。最も古い講演は1995年のもの。出井氏がぶち上げたコンセプトに関する講演が少なくない。古めのコンセプトや講演のなかには、現実との乖離がある発言も少なくい。ITや時代の流れの速さを改めて感じさせられる。将来を予測することの難しさを感じさせる書ともいえる。

 

隠すマスコミ、騙されるマスコミ
小林雅一、文春新書、p.230、\700

2003.05.20

 元・日経BP社の社員で、日経エレクトロニクスの記者だった小林雅一氏の4冊目(?)の本である。かつて小林氏の原稿を査読した経験をもつ筆者としては感慨深い。長らく米国で取材活動をしていたが、最近になって帰国して記者活動を続けている。本書では、現在のマスコミが、悪意を持った人間に騙されやすい構造的な問題を抱えていることを、実例を駆使して書き込んでいる。後半部はかなり疲れがみえるが、前半部はなかなか面白い。時間に追われ、十分な検証がなされない現在のマスコミの病巣をうまく捕らえている。特にインターネットでの情報発信競争と、取材される側の企業のマスコミ操作法が狡知になったことが、この問題を悪化させている。これまで小林氏が書いた本に比べ間口が広いので、そこそこ売れるかもしれない。小林氏は原稿を出版社に持ち込ん、やっと採用されたそうである。

 

失敗学のすすめ
畑村洋太郎、講談社、p.255

2003.05.16

 失敗学で有名な畑村洋太郎教授の「失敗学」シリーズの最初の本。これでブレークして、すっかり有名になってしまった(最近は小康状態だが・・・)。それまでは学術書ばっかりで、この本が一般読者向けの最初の本である。そのため書きなれないという感じで、少々読みづらい。いかにも大学の先生の手になる書という感じである。妙な受けを狙っておらず、その後の本に比べて真面目で固く、中身の濃い内容の本になっている。営団地下鉄日比谷線の脱線事故に関する記述には知らなかったことも含まれており、知的好奇心も持たされる。

 

国会議員を精神分析する
水島広子、朝日新聞社、p.174

2003.05.14

 民主党から出馬して当選した精神科医の手になる本。鈴木宗雄や田中真紀子、小泉純一郎など、名前を出して差し支えのない人は別として、ほとんど仮名である。それでも冒頭部分はそこそこ読ませる。政治家の言うこととやることのギャップを暴いている。ただし、冒頭だけであとは少々失望させられる内容である。もっと迫力満点の本かと思ったが、仮名の分だけ物足りない(仮名といってもAから順番に出てくる。誰なのか想像する楽しみもない)。もっとも、実名を出すと選挙妨害や誹謗中傷のたぐいとも取られかねないので仕方がないといえば、仕方がないのだが・・・。

 

豊田市トヨタ町一番地
読売新聞社特別取材班、新潮社、p.279

2003.05.08

 経常利益が1兆円を超え、日本一もうかっている会社トヨタの歩み、トヨタの研究である。本の帯に「トヨタ研究の決定版」とあるが、ちょっと言い過ぎ。豊田家、労組、養成工1期生、日産とのつばぜり合いといったところを扱う。読売新聞の連載を単行本化しただけあって読みやすい。逆に淡々としているので、盛り上がりに欠けるともいえる。あまり扱われることのない、養成工の歴史やコメントが真新しい。今年はじめに読んだ「トヨタを創った男●豊田喜一郎」とあわせて読むとバランスがとれて、ちょうどよいのかもしれない。

 

ぼくたちがIBMとHPで学んだこと
後藤三郎(日本IBM元専務)、中司恭(日本HP元常務)、日経BP社,\1500、p.209

2003.05.05

 中学から大学まで同じ学校で学んでいた、二人の元外資系IT企業役員が振るかえる外資系人生。日本HPの方は当初計測器メーカーで、横河電機との合弁・横河ヒューレット・パッカードだったので、外資系というのは正しくないが・・・。親分-子分の関係が日本以上に濃厚だとか、外資系企業の実態がそれなりに正直に語られている。ベトナム戦争時に、日本国籍のIBM社員に対してさえ「徴兵登録」が求められたという仰天の事実があきらかにされている。IBMの服装規定(シャツは白)の逸話やHPウエイが崩壊した理由など、興味ぶかい話題が多い。“complete”や“perfect”という言葉に対する日本人と米国人の受け取り方の違いの指摘は、まさに仰る通り。よく取材に現場で見聞きした事実である。軽く読める本なのでお薦めである。

 

巨大銀行沈没:みずほ失敗の真相
須田慎一郎、新潮社、\1500、p.294

2003.05.01

 みずほ銀行がシステム障害に見舞われて1年。その後の動きとあわせて、日本の巨大銀行の抱える問題点を暴いた書。テレビで御馴染みの須田慎一郎氏の書き下ろし。同氏が、金融業界に強いジャーナリストだったとは、恥ずかしいことに実は気づいていなかった。テレビに出ると、何が専門なのかがよく分からなくなるせいかもしれない。映像が中心になり、単なるコメンテータ役になってしまう。本書は、そこそこよく出来ている。分かりやすい文章なので、スイスイ読める。ただ本の帯にある「いま始めて解き明かされる衝撃の真実」というのは大げさ。システム障害に関しては日経コンピュータを参考にしているが、明示せずに書くところが少々気になる。工学系の論文を仕事で読んでいた時代の悪しき名残かもしれないが・・・・

 

2003年4月

ザ エクセレント カンパニー
高杉良、毎日新聞社、\1700、p.421

2003.04.29

かつて同名のビジネス書がありベストセラーになったが、本書は小説である。ただし実在のモデルが存在する(筆者が後書きで披露している)。カップ麺で知られる東洋水産であり、その米国法人が小説の主役であるる。実名では出てこないものの、モデルをかなりのところまで忠実に描いているようだ(主人公以外の脇役も実在)。また、カップ麺ではライバルの日清の話や、日本経済新聞社と推察できる表現もある。小説の内容は、さほど面白いものではない。盛り上がりもなく、淡々と最後まで読んでしまったというのが感想である。400ページを超える大著だが、あっという間に読めてしまう。ただ筆者が後書きで書いているように、トヨタやソニーばかりが、“エクセレント カンパニー”ではないという主張はうなづける。

メディア・コントロール〜正義なき民主主義と国際社会
ノーム・チョムスキー、鈴木主税 訳、集英社、\660、p.163

2003.04.26

米国のイラク侵攻を考えるうえで非常に役立つ書。イラクを「敵」と書く新聞が登場したり、「侵攻」を「進出」と言い換える新聞が出たり、マスコミの退廃が取りざたされている時期にぴったりの本である。いろいろなことを考えさせられる。米国の詭弁と、それにたやすく乗るマスコミの実態がよく分かる。ただし退廃しているのは日本だけではなく、米国も同じ穴のムジナというのがよく分かる(言論の自由に関する米国の素晴らしさも同時に伝わる。「個人情報保護法」という名前で愚弄するレベルの低い国は大きく違う)。本書は9.11までを扱っているが、主体は湾岸戦争以前である。古さをまったく感じさせないし、迫力をもって迫ってくる内容である。

 

戦争報道
武田徹、筑摩書房、\720、p.238

2003.04.23

期待はずれの本。戦争をマスコミがどう扱っているかをベトナム戦争から9.11までを取り上げているが、映画の話など話題が分散して説得力に乏しい内容になっている。

 

古武術に学ぶ身体操法
甲野善紀、岩波書店、\700、p.167

2003.04.20

ジャイアンツの桑田真澄投手が取り入れたとして話題になった古武術。桑田投手は、従来の投球術とは違う「捻らない、うねらない、ためない」という投げ方(身体術)は2002年は防御率1位になったということで話題を呼んだ。桑田投手に体の使い方を伝授した師匠・甲野善紀氏が書いた本である。桐朋高校のバスケットボール部も古武術の動きを取り入れているという。結構、面白い内容である。体の使い方の話と、甲野善紀氏が古武術にたどり着いた経緯が書かれている。体の使い方に関しては、「へ〜っ」こんな考え方もあるんだという意味で驚きがある。一般の人が身につけたほうがよい、転び方とかも紹介されている。桑田投手が学んだ身体術がたくさん書いてある本だと期待すると当てが外れるので注意が必要。

 

産学連携:中央研究所の時代を超えて
西村吉雄、日経BP社、\1800、p.308

2003.04.18

日経エレクトロニクスの元編集長、西村吉雄氏の最新作。研究開発に関する大学と産業界の役割について持論を展開している。若干行きつ戻りつする記述が気になるが、著者の博覧振りが良く出ている。よくまとまっており、参考になるところが多い。以前の翻訳書で、一部で物議をかもした「中央研究所の時代の終焉」(日経BP社)は米国の話だったが、本書では日本の問題点を挙げて今後を方向性を示している。「産学」とあるが、どちらかというと「産」の視点が強い。この3月末で退官された東京大学での経験は、次作で披露ということになりそうだ。日本経済新聞に生駒俊明一橋大学客員教授(日本TIの前会長)が少々辛口の書評を書いていたので、覚えている方もいるかもしれない。ちなみに「中央研究所の時代の終焉」は、私がシリコンバレーのショッピングセンターにあるバーンス・ノーブルでたまたま見つけた本。インテルのゴードン・ムーア氏の著作が出ていたので、何気なく購入した(米国出張の直後に日本でムーアのインタビューがあったので、予習のために買った)。役に立ちそうな本なので、日経エレクトロニクス時代に水野博之氏(松下電器の元副社長)に書評をお願いしたら大絶賛。とんとん拍子で、日経BP社で翻訳本を出す運びになった経緯がある。

 

組織をだめにするリーダー、繁栄させるリーダー
フランチェスコ・アルベローニ、草思社、\1500、p.264

2003.04.13

ある人に薦めで購入した書。書いてある内容は特別ではないが、書き口が鋭く痛快な本である。特に組織をだめにするリーダーの部分は、思い当たるところがある人が多いのではないか。ノウハウ本ではないが、一種の清涼剤のような本である。

 

仕事のなかの曖昧な不安---揺れる若年の現在
玄田有史、中央公論新社、\1900、p.254

2003.04.04

人事制度や雇用情勢を扱った書。はっきり覚えていないが、どこかの出版社の賞を受賞している。気になりながらも、長らく積読状態になっていた。読んでみて、受賞するだけの価値がある書だと実感できた。副題に「揺れる若年の現在」とあるので、若い人向けと思われる向きもあるかもしれないが、大はずれである。多くの方に読んで欲しい本である。新聞や雑誌などで書かれている「雇用情勢や人事制度」の誤謬をデータを使いながら明快に解説している。たとえば失業率の悪化の裏にある、学歴間の歴然とした格差などはあまり報道されることはない。説得力のある書き口には好感が持てる。

 

2003年3月

ブッシュよ、お前もか・・・・
増田俊男、風雲舎、p.238、\1500

2003.03.24

不思議な雰囲気をもつ、面白い本である。筆者は時事評論家というが、残念ながら寡聞にして知らない。一読すると牽強付会のような記述が多く胡散臭さがぷんぷんするのだが、現実に起こったことと照らし合わせると、少々驚かされる。とにかくブッシュがイラクに軍事行動を起こした今読み直すと、非常に示唆に富んだ内容が満載である。2001年10月に出版された本ということを考えると、非常に優れた洞察力という以外にない。みごとに米国の行動を言い当てている。一読の価値はある。

 

経営はロマンだ
小倉昌男、日本経済新聞社、\600、p.220

2003.03.22

ヤマト運輸の小倉昌男が日本経済新聞に執筆した私の履歴書を文庫本化したもの。いまや小倉は、希少価値となった筋を通す経営者である。官僚との対決は見もののひと言。怒りがよく伝わってくる。その快男児ぶりが本書ではよく出ている。ヤマト運輸を引退した後の福祉にかける意気込みも実に素晴らしい。

 

ブックオフの真実--坂本孝ブックオフ社長、語る
村野まさよし編、日経BP社、\1500、p.255

2003.03.21

新しいタイプ(ビジネスモデル)の古本屋、というか新古書屋ブックオフの社長が、ブックオフのお手本にしたマツモトキヨシの松本和那社長、ジャーナリストの村野まさよしと、それぞれ対談する。再販制度を脅かす存在、万引きを助長する存在、著作権をないがしろにする存在として非難を浴びることが多いブックオフだが、社長が持論を展開している。聞く側の松本社長や村野も単刀直入に質問しているだけに、読み応えがある。再販制度や出版業界に対する主張、ビジネス感には納得できる部分が少なくない。ブックオフとは何ものかを知る上で格好の1冊である。

 

田中角栄失脚
塩田潮、文芸春秋、\860、p317

2003.03.14

田中角栄を退陣に追い込んだ二人のジャーナリストに焦点を当てた本。「田中角栄研究」の立花隆と「越山会の女王」の児玉隆也である。この2本のルポが載った文芸春秋が発行されたのは高校時代だった。しばらくして本屋に探しに行ったが、見つからなかった記憶がある(本書によって、文春が増刷しなかったことを知った)。本書は、2人のジャーナリストとしての足跡や仕事振り、文芸春秋掲載までの苦闘や圧力などを丹念に追っている。両人とも非常に好きなジャーナリストだが、この本を読むと、児玉の死があまりに早かったという気持ちが改めて強くなる(イタイイタイ病のルポはいまでも記憶に残っている。児玉の単行本を紛失したのは、いかにも残念)。また文芸春秋という会社のもつ矜持も感じられる。同じマスコミ人として役立つ話が多い。もちろん、一般の人にもお薦めの1冊である。

 

帝都東京・隠された地下網の秘密
秋葉俊、洋泉社、\1900、p.317

2003.03.10

雑誌の書評でも多く取り上げられた書。切り口と観点は実に面白いが、どうも中身が伴っていない。あまりに裏づけに乏しい(あるいは、そう読める)ので、記述に迫力がない。そのうえ正直言って、文章は異様に分かりづらい。新聞記者出身とあるが、個人的には信じられないレベルである。私の頭では、何を言っているのか分からないところが非常に多い。題材が悪くないだけに、残念である。図の使い方も悪く、説明になっていないところが多くみられる。これで1900円は高いのだが、題材のよさが補っている。

2003年2月

日本経済 不作為の罪
滝田洋一、日本経済新聞、\1500、p.276

2003.02.20

日本経済新聞の編集委員が書き下ろした「失われた10年」分析の書。日本と米国の金融政策を時系列で対比しながら、日本が陥った陥穽を明らかにしている。分かりやすく説得力に富んでいる。また、先送りと、その場しのぎに終始した日本の経済政策を振り返るのには格好の書である。米国の戦略に関する見方でも得るところが多い。米企業が発表する「まやかし」決算に関する解説は勉強になる。教えられるところが多い。決算の胡散臭さは日本企業の専売特許のような感じだったが、米国企業も似たり寄ったりだということがよく分かる。

 

個人情報は誰のものか:防衛庁リストとメディア規制
毎日新聞「情報デモクラシー」取材班、毎日新聞社 \1700、p.270

2003.02.16

個人情報保護に名を借りたマスコミ規制法のデタラメさを追った書。どうしてあんな滅茶苦茶な法案が作成されるのかや、この国のレベルの低さがよく分かる。全編を通して毎日新聞の記者が、足で稼いだスクープの数々の裏側を知ることができる。しかし読めば読むほど、この国の民主主義の脆弱さと情けなさが伝わってくる。それにしても登場してくる官僚と政治家のレベルの低さと下品さはなかなか凄い。読み応えのある本である。

 

日本人はなぜ、世界が読めないのか---
カルロス・ゴーンの成功の秘密

磯村尚徳、朝日新聞社、\1100、p.155

2003.02.15

取材後にふら〜っと立ち寄った日本橋・丸善で購入した本。帯にある「カルロス・ゴーン氏 パリ特別講演」という宣伝文句に誘われて買ってしまった。母国フランスでゴーン氏がどんな本音を喋ったかに興味を持ったからだ。こんな期待で買うと裏切られるかもしれない。ゴーン氏の講演を収録した部分は、ほんのわずかしかない。内容もさほど面白くない。ちなみに著者は、NHKのニュースセンター9時でキャスターを務め、その後、都知事選で落選した磯村尚徳氏。フランス滞在が長い、氏のジャーナリストとして見方がよく出ている本である。米国対イラクの国連決議で拍手を浴びたフランス外相の行動を裏付ける、フランス人のメンタリティが何となく伝わってくる。簡単に短時間で読めるので、暇つぶしに読むと意外に刺激になるかもしれない。

 

産廃コネクション
石渡正佳、WAVE出版、\1600、p.253

2003.02.13

新聞、雑誌の書評でよく取り上げられている本。不法投棄が横行する産業廃棄物の闇のルートを丹念に追った本である。著者は千葉県の職員で産廃Gメン。元環境問題記者(もともとエンジニアとしてごみ焼却炉にかかわり、記者・副編集長として環境問題を記事として取り上げた)としては、ぜひとも読みたかった本である。本書は、産廃が不法投棄される仕組みを細かく解明している。ただあまりにも細かすぎて、読み進めるのつれて徐々に頭の整理がつかなくなってしまう。ただ闇のルートは表面上多種多様だが、その基本はさほど変わらない。最初に部分を読み込めば、全体の構図はつかめる。いずれにせよ、環境問題は、誰も口出しできない表の裏側に、奇麗事でおさまらない、厳しい現実がある分野である。マスコミの取材の限界を強く感じる問題であることは今も昔も変わらない。

 

世界一の職人 岡野雅行:俺が作る!
岡野雅行、中経出版、\1400、p.222

2003.02.01

サンデープロジェクトで頻繁に出てくる町工場「岡野工業」の親父・岡野雅行の書。ウォークマンのガム電池の外枠や痛くない注射針(極めて細い注射針)などの金型プレスがテレビで紹介されている。その経営哲学、技術哲学が如何なく披露されている。著書というより、インタビューを基に書き上げた書であろう。まさに自信満々、言いたい放題といった感じである。ある意味、実に爽快な本に仕上がっている。世界中の誰にも負けない技術に自信があるというのは大したものである。日本の製造業よ、頑張れ、自信をもてという応援歌といった趣の本で、読んで損はない。

2003年1月

バルマー:世界最強の経営者
フレデリック・アラン・マクスウェル著、遠野和人訳、イースト・プレス、\1700、p.284

2003.01.26

マイクロソフトの会長兼CEOのスティーブ・バルマーの初めての評伝。なかなか面白い。サンのマクニーリとの関係など、バルマーを巡る人間模様には初めて知ったものが多い。IT業界で生きるものにとって、最小限読むべき書籍の一つといえそうだ。お薦めの1冊である。ちなみに、マイクロソフトに関する記述はとても辛口である。バサバサと切り捨てている。ただユーモアもあふれたコメントが散らばっていて、キツイ語り口を緩和している(もちろんマイクロソフト関係者は別だと思うが)。

 

トヨタを創った男●豊田喜一郎
野口均、WAC、\1700、p.353

2003.01.02

いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのトヨタ自動車の創始者である豊田喜一郎を扱った伝記であるが、むしろ印象に残るのは豊田佐吉の方である。発明王といわれる豊田佐吉の偉さが際立っている。豊田喜一郎はなんとなく影が薄く、脇役と感じてしまうのははぜだろう。人生の起伏の大きさの差なのだろうか。豊田佐吉にしろ喜一郎にせよ、むやみに持ち上げることなく淡々と歴史を綴っている態度は好感がもてる。あまりトヨタ自動車の歴史に詳しくはなかったが、大争議の話など始めて知った事柄が多く役に立った。

 

横田英史(yokota@nikkeibp.co.jp

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て,1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。
日経エレクトロニクス記者,同副編集長,BizIT(現IT Pro)編集長を経て,2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。
2003年3月発行人を兼務。現在に至る。
記者時代の専門分野は,コンピュータ・アーキテクチャ,コンピュータ・ハードウエア,OS,ハードディスク装置,組み込み制御、知的財産権,環境問題など。