横田英史の読書コーナー(2000年版)

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2000.12.29●“The Second Coming of Steve Jobs”,Alan Deutschman,Broadway Books,$26

 アップルを追われて以降のSteve Jobsの足跡を追った書。米Next Computerの設立と失敗,米Pixarの設立と成功を経て,Appleに暫定CEOとなった舞い戻り,再び成功をおさめるまでを扱っている。インタビュー嫌いのJobsを扱った書とあって,いまいち突っ込み不足が目立つ。少々変わったJobsのパーソナリティだけはよく分かる構成となっている。

2000.12.24●「ああ言えばこう行く」,檀ふみ,阿川佐和子,集英社,\1500

 典型的な二匹目のどじょうをねらった本。前作同様に,カミさんが図書館から借りてきた本を読む。前作である「ああ言えばこう食う」に比べれば,面白さは半減(もっとかなァ〜)している。いかにも面白おかしく書こういう意識が前面に出てしまって,それが鼻について気になって仕方がない出来映えである。明らかに失敗作。

2000.12.21●「覇者の条件」,増田茂,東洋経済新報社,\1600

 ニューヨーク在住でTVにも良く出ているベンチャー・キャピタリストの書いた書。最近の日経ビジネスの書評欄で,著者自身が自著について語っていた。さして期待せずに読んだが,けっこう面白い。米国のITバブルの実相,それに対する米国のベテラン・ベンチャー・キャピタリスト(ITバブル以前から活動を続けていると言う意味)の視点がよく分かる。惜しむらくは,米国のITバブル崩壊前に出ていれば価値は増しただろう。日本に対する期待に関しては,少々甘い面も感じられる。

2000.12.19●「消されかけたファイル」,麻生幾,新潮社,\1500

 警察情報に強みを発揮するノンフィクション作家の麻生幾が週刊新潮に書いている事件ものをまとめた書。週刊誌の連載ものということで,書き込みが足らず欲求不満の残る内容となっている。タイトルはセンセーショナルだが,内容がそれに伴っていない場合が少なくない。麻生幾ファンとしては残念な出来映えである。

2000.12.14●「市場主義の終焉」,佐和隆光,岩波書店,\660

 このところどうも精彩に欠けていた佐和隆光の手になる岩波新書。悪くない出来。20世紀の最後の10年を席巻した市場主義への批判(反省)がベースになっている。米国信奉の市場主義への傾注を戒めている。21世紀の日本経済再生の処方箋を示すまでは至っていない(当たり前の話だが・・・)が,なかなか示唆に富む書である。

2000.12.12●「私の死亡記事」,文藝春秋編,文藝春秋,¥1524

 面白い企画。生きている著名人に自らの死亡記事(新聞にでているあれ)を書いてもらったものを集めている。かなり出来に差がある。全体で見ればつまらなない。企画倒れかもしれない。読んで印象に残ったのは,葬式をしたくないという人がとても多いこと。妙にきらびやかでお金がかかった葬式に嫌悪する著名人が多いのがよくわかる(まったく同感)。もう一つ,世の中に詩人とか歌人とかいう人がこんなに多かったとは・・・

2000.12.8●「宮大工千年の知恵」,松浦昭次,祥伝社,\1600

 宮大工ものは非常に面白い。法隆寺宮大工の西岡常一氏の著作にもいえるが,木の持つ素晴らしさには感心させられる。鋭い現代文明,科学万能主義への批判となっている。実にいい。木造建造物のもつ美しさの秘密,技術の確かさがよく分かる。

2000.12.6●「混迷の時代に--ネットワークっしゃかいの遠心力・求心力」,出井伸之,WAC,\1600

 ソニーの出井会長が,スカイ・パーフェクトTVで行ったインタビューをまとめた本。インタビュー本というのは,つまらないことが多いが,本書の出来は悪くない。インタビューの相手は,孫+スコット・マクニーリ,宮内義彦+中谷巌,塩野七生,坂本龍一,小沢征爾,大賀典雄などなど。多彩な顔ぶれとなっている。実業界の筑紫哲也というところか。若干相手に遠慮が感じられるが,それなりに得るところのある本。読んで損はない。ただし孫+スコット・マクニーリとのインタビューは歯が浮く。

2000.12.1●「不況もまた良し」,津本陽,幻冬社,\1600

 松下幸之助の伝記。サンケイスポーツに掲載されていたものをまとめた小説である。それほど面白い本ではない。本田宗一郎と並び,雑誌で特集を打つと必ず好評を博す松下幸之助だが,この本はいまいち。細切れの新聞の小説を集めたせいか,伝記としての魅力に乏しい仕上がりになっている。ところで興味があるのは,松下幸之助が今後も日本におけるビジネスの規範の一つとなり得るかだ。日本人の琴線にはふれなくなりつつあるように思うが・・・如何だろうか。

2000.11.27●“Clicks and Mortar”,Davis S.Pottruck and Terry Pearce, Jossey-Bass Publishers,$26

 つん読のまま置いていたら,日本語訳が出てしまった本。Charles Schwabの創設者らが書いたビジネス書。インターネットで注目を浴びるCharles Schwabだが,中身はインターネットとはほとんど関係ない。ごく一般的なビジネス書。非インターネットのビジネスに通用する内容で埋められている。それはそれで構わないが,あまり驚きのない本である。

2000.11.24●「追跡者」,福本博文,新潮社,\1700

 失踪者を追う探偵の話。ノンフィクションである。そこそこ面白いが,書き込みが足らず物足りなさを感じる本である。同じノンフィクションといっても,桶川市のストーカー殺人事件を扱った「遺言」とはえらく違う。主人公は伊藤博重という人物。テレビ朝日の「あなたに逢いたい!」(私自身は見たことはないのだが・・・)に出演して一躍有名になったという。探偵の実態が垣間見えて,その意味では面白い。

2000.11.21●「スーパースターがメディアから消える日」,小林雅一,PHP研究所,\1400

 私が編集長を務めているIT Proに定期コラムを書いてもらっている小林雅一氏の著書。IT Pro(前身のBizITを含め)で掲載したコラムの話題もふんだんに含まれている。米国の最新の話題をバランスよく並べていて,入門書に向いている。ただし,それぞれの話題についての書き込みは若干不足している(本書の主旨ではないので仕方がないが・・・)。

推薦! 2000.11.17●「遺言」,清水潔,新潮社,\1400

 桶川市のストーカー殺人事件を追ったノンフィクション。ノンフィクションのもつ「力」「迫力」が凝縮された一冊である。著者は写真週刊誌『FOCUS』の記者。丹念で,しかも執念の取材で真実に迫っていく。大マスコミの怠惰,警察の裏切りを見事に描いている。写真週刊誌というとスキャンダラスにプライベートを暴くメディアといった先入観があるが,それが覆る。間違いなく,今年読んだなかで最高ランクの書である。

2000.11.15●「ネットバブル」,有森隆,文春文庫,\660

 光通信,リキッドオーディオ・ジャパン,ソフトバンク・・・,それを無批判に持ち上げたマスコミを,ばったバッタと斬りまくる。著者の軽妙な語り口もあって,とても楽しく読める。もっとも,あまりに「軽い」書き口のため,逆に読む方は「全面的に信じられるのかな?」と逡巡してしまう。ネット・バブルは何で,何があったか(現在進行形だが・・・・)を振り返るうえでは役に立つ書である。

2000.11.10●「ローマの街角から」,塩野七生,新潮社,\1200

 あの『ローマ人の物語』の著者のエッセイ集。あまりにも情けない日本の現状に警告を昔から発しているのに,まったく変化しない状況への苛立ちがよく表れている。とくに政治に対する辛辣な書き口には共感を覚える。ただし,波長が合わないせいか,少々読みづらい。

2000.11.03●「日本とは何か」,網野善彦,講談社,\1500

 講談社が刊行を始めた「日本の歴史」シリーズ全26巻の第1回配本。岩波新書の「日本社会の歴史」がベストセラーとなった網野善彦が「00!」巻を執筆している。いわゆる教科書型の歴史ではなく,一般市民の側から歴史をとらえようとしている。いかに教科書的な歴史が通り一遍で,表層的かを力説する。庶民の視点からの歴史という試みはこれまでもあったと思うが・・・。ちなみに本書の帯には,「歴史が変わる,生き方が変わる,いま日本を問い直す」とある。いずれにせよ,このシリーズの評価は続刊を読んでからということになる。

2000.11.01●「吉田茂という逆説」,保坂正康,中央公論新社,\2850

 吉田茂で思い起こすのは,「国葬」「葉山」「葉巻」「サンフランシスコ講和条約」「吉田学校」といったところだろうか。その吉田茂の実像に迫ったのが本書だ。人間くさい,欠点の多い人物として吉田茂を描いている。ただし,何となく退屈で冗長な感じの本である。

2000.10.29●「純愛時代」,大平健,岩波書店,\650

 「やさしさの精神病理」「豊かさの精神病理」など,分かりやすい切り口で現代の病理を説く精神科医の大平健の新著。今回のテーマは「愛」である。相変わらずの語り口でとても読みやすい。ただし,患者のプライバシの問題もあり本当のことを書くわけにもいかないだろうが,話がうまく出来過ぎていて,「本当?」といった感が強い。今回の書は少々やりすぎかもしれない。

2000.10.27●「得手に帆をあげて」,本田宗一郎,三笠書房,\1400

 今は亡き本田宗一郎の書。復刻(?)されて最近書店に並んでいる。本田宗一郎と言えば,松下幸之助と並んで雑誌で特集を組めば必ず当たるという御仁である。本書を読めば,なぜ本田に人気があるかがよく分かる。とにかく,とても気持ちによい本である。日本に何ともいい時代があったのだ,こんなに幸福な技術者がいたんだ,という気持ちにさせられる。現在とのギャップがあまりにも大きくて,逆に暗澹とした気持ちにもなるのだが・・・・。

2000.10.25●「ハリウッドで政治思想を読む」,副島隆彦,メディアワークス, \1600

 題名と中身にかなりの落差がある。確かに映画の話もあるし,それを政治的な側面から見た話も含まれている。ただ本書の主旨からみれば,こうした映画の話は刺身のツマでしかない。言論界で自らの置かれた立場への不満,自慢話が大半を占めている。副島隆彦ファンなら楽しく読めるが,そうでない人にはお勧めできない本である。副島の本では「裁判の秘密」を読んだことがあるが,かなりイメージが違ったのも事実だ。

2000.10.22●「金融庁が中小企業がつぶす」,東谷暁,草思社,\1400

 新聞の書評などで取り上げられた書。官僚や学者,マスコミの考える世界と現場との乖離を丹念な取材で追っている。いかにマスコミで語られる話が実態とかけ離れているかがよく分かる。金融関係だけではなく,我々のいる技術の世界でも同様なことが言えそうで反省させられる書である。

2000.6.5●「気になる胃の病気」,渡辺純夫,岩波書店,\660

 胃がんや胃潰瘍。誰しも気になる病気だ。若いうちは,食べ過ぎたときくらいで大して気にもならない「胃」。しかし中年以降になると,多年の酷使やストレスが引き金になって,俄然その存在は気になってくる。その胃の病気のメカニズムや診断,治療法などに,比較的分かりやすく解説している。岩波新書にはこの手の本が少なくないが,読みやすい部類に入る。

2000.6.2●「やっぱりわが家で暮らしたい」,夏目幸子,岩波書店,\1500

 「高齢社会の手引き」シリーズの1冊。高齢になり車椅子の生活になった場合を想定したバリア・フリーの家作りを解説している。階段や玄関,トイレ,浴室,台所などの具体例が豊富(写真も豊富)で,分かりやすい。親の介護や自分自身の老後を考えると,そろそろ切実な問題となってきているが,家を改造するには先立つものが・・・・。
2000.5.31●「金融工学の挑戦」,今野洋,中央公論新社,\700

 「金融工学」って,ちょっと取っつくにくい。数学を駆使するし,デリバティブなど,ヘッジ,スワップ,プット,コールなどなど・・・・。覚え(もちろん,うろ覚えだが)ては忘れるというサイクルを繰り返している。これほど敷居の高い金融工学に関する書を購入したのは,AT&Tのカーマーカ特許でいろいろと世話になった今野氏が著者だったからである。本書には数式も出てくるが読み飛ばせば大丈夫。金融工学の著名人の裏話が充実しており,理系の視点からの文系批判も楽しい。「バブル期に金融機関があさった理系の学生を返せ」との主張は全くそうだ。あの人材は,どこでどう生かされているのだろうか?

2000.5.28●「凡宰伝」,佐野眞一,文芸春秋,\1619

 小渕恵三を扱ったノンフィクション。ベストセラーになっている。何ともタイミングのよい出版に,「総選挙向けの自民党の宣伝か?」と感じるほどだ(結果的に,そうなるかもしれない)。内容は非常に面白い。凝り性で,丹念に対象を追う佐野眞一の真骨頂が出ている。小渕の不可思議な人間性をうまく描ききっているが,それが首相としての適性に合致しているかどうかは大いに疑問だが・・・。

推薦!2000.5.25●「聖の青春」,大崎善生,講談社,\1700

 29歳で夭折した棋士「村山聖(さとし)」の一生を追ったノンフィクション。文句なく面白い。子どものときに罹った病気の影響で,難病を背負って戦い続けた勝負師の物語である。その壮絶な生き様は実に感動的である。ビッグコミックでも連載中である。ちなみに小学生にも読めるように配慮してルビをふってある。

2000.5.19●「いま,技術者が危ない」,森和義,マネジメント社,\1800

 日本の技術者と経営者が抱える問題点を指摘した書。神戸製鋼出身のコンサルタントである筆者が言っていることはまともなのだが,独自の視点がどこのあるのか定かではない。間違いはないのだが目新しいところは少ないので,読後感はあまりよくない。登場するデータが少々古いのも気になるところだ。

2000.5.18●「東電OL殺人事件」,佐野眞一,新潮社,\1800

 先日無罪判決が下り,ネパール人の被告の拘束をめぐって今も新聞紙上をにぎわせている東電OL殺人事件を丹念に追ったノンフィクション。警察の捜査,慶応経済学部を卒業し東京電力に勤めながら娼婦として殺された被害者,被告となったネパール人の周辺を綿密に調べている。被告の家族を訪ねネパールまで足を運ぶ行動力と取材にかける執念はすごい。その筆者にして,被害者の「闇」の部分が結局曖昧になっている。その底知れぬ闇はいったい何だったのかを,思わず考えずにはいられない。山崎豊子流のフィクションならスパっと割り切れるのだが・・・。

2000.5.16●「子どもはどこで犯罪にあっているか」,中村攻,晶文社,¥1900

 子どもの周辺が恐ろしく危険になっているのは,誰しも感じるところだろう。その子どもが犯罪に遭遇した場所を丹念に分析し,何が問題なのか,どうすれば改善できるかを著している。言っていることはごもっともで納得できるのだが,牽強付会の気味もある。

2000.5.12●「大国日本の揺らぎ」,渡邉昭夫,中央公論新社,¥2400

 「日本の近代」シリーズの第8巻(第13回配本)。1972年から現在までを扱っている。沖縄返還,経済大国,バブルといった話題を政治と経済を軸に取り上げている。子供のころ見聞きした沖縄返還や高度経済成長の話が,歴史のなかにどう位置づけられているのかを検証しながら読むという作業は,けっこう楽しいものだ。日本の政治/外交のナイーブさと,欧米のしたたかさを改めて感じさせてくれる書でもある。それにしても,日本も元気だったことがあったんだ・・・。

2000.5.10●「日本と世界が震えた日」,榊原英資,中央公論新社,¥1600

 大蔵省財務官で「ミスター円」の異名をとった榊原英資氏の書。官僚としては異様に著書の多い人である。「文明としての日本型資本主義」とか「資本主義を超えた日本」といったタイトルは今では「?」なのだが・・・・。本書は大蔵相時代を振り返り,国際経済の裏側で各国がどういったやりとりを繰り広げたかを詳しく述べていて,なかなか勉強になる。進歩主義や市場原理主義に異を唱える筆者のスタンスがよく分かる書である。

2000.5.1●「誤診列島」,中野次郎,集英社,\1600

 日本がほとほと情けなくなってしまう。そういった類の書である。医療現場に限らないが,日本の抱えている構造的な問題の根深さに暗澹たる思いを抱いてしまう。世界(本書の場合は米国)の常識は日本の非常識という公式が,ピッタリと当てはまっている。相次ぐ医療ミス,薬の乱用,医学教育といった問題を,オクラホマ大学医学部教授だった著者が憤然としながら書き進んでいる。「荒廃」そのもの,という暗〜い読後感の本である。
2000.4.26●「青い閃光:ドキュメント東海臨界事故」,読売新聞編集局,中央公論新社,¥1700

 東海村のJCOで起こった臨界事故を扱ったノンフィクション。地道な取材で,こってりと書き込んでいる。臨界事故の起こった経緯と背景,相変わらずお粗末な危機管理,技術神話の崩壊といった多彩な切り口で書き進んでいる。あのときなにが起こったかを知る上では格好の書である。

2000.4.21●「The Art of Happiness」,Howard Cutler,Riverhead Books,$22.95

 先日来日したダライ・ラマの言行を集めた書。Amazon.comのランキングで上位にきていたので,ついつい買ってしまった。続編が最近出たようで,Amazonからは「お誘い」のメールが先日届いていた。要するに心穏やかに生活するのは,どのようにすれば良いを説いている。特別な秘訣があるわけではなく,結論はごく当たり前なのだが・・・・。ちなみに日本語訳も出ている。
2000.4.14●「スーツホームレス」,小室明,海拓社,\1600

 失業率4.9%,完全失業率329万人から生まれたスーツを着たホームレス。彼らへのインタビューを含んだノンフィクションである。実際はスーツを着た(着ていた) ホームレスの話はさほど多くなく,タイトルと中身には若干の齟齬がある。さまざま な書評で扱われている本だが,内容はイマイチ。なぜか訴えるものが少ない。内容を欲張りすぎたせいか,登場人物が多く,個々の経歴への掘り下げが不足しているせいかもしれない。

2000.4.12●「ティッピング・ポイント」,マルコム・グラッドウェル,飛鳥新社, \1700

 大流行は,どのような仕組みで生まれるのか。その原因を探った書。ちょっと冗長な感じもあるが面白い。小さな変化が,どのようにして大きな変化につながっていく のかを説いている。特にニューヨーク市の犯罪率がなぜ急激にダウンしたのかを解き 明かしたところや,セサミストリートの人気を分析した部分が興味深い。お薦めの本である。

2000.4.7●「うちのお父さんは優しい」,鳥越俊太郎,後藤和夫,明窓出版,\1500

 非常に深刻で重い本である。金属バットで中学生の我が子を殴り殺した父親の公判 記録をもとに構成されている。父親の人となり,思想,育った環境などを丹念に追っ ている。外から見ると普通の親子関係が,どのようにして壊れていったかを追跡して いる。当然かもしれないが,「なぜ」「どうやれば解決する」かの回答はない。父親 や母親の行動に「どうして?」というのが率直な感想だが,深く考えさせられる好著 である。
2000.3.28●「ブランディング22の法則」,アル・ライズ/ローラ・ライズ,東急エージェンシー,\1700

 このところ少々気になっているブランディングについて,具体例を引きながら解説した本。最近,この手の本を読む機会が少な かったので,妙に納得してしまった。各章に掲げられた例がけっこう説得力を持っている。読んでいて楽しくなる種類の本だった。も ちろん,本書の記述が正しいかどうかは別問題だが・・・・。

2000.3.27●「華麗なる鳩山一族の野望」,大下英治,プラネット出版,\1800

 よっぽどの鳩山好きでもなければ読まない方が無難な本。いわゆるチョーチン本に出来上がっている。何なんだろうと,考え込ん でしまう。言葉の端々に「ヨイショ」が出ていて少々読んでいて苦痛になる。

2000.3.23●「会議の技法」,吉田新一郎,中公新書,\740

 このところ悩まされている「会議」について,何かヒントが得られるかと思って読んだが,まったく期待はずれ。あまりに当たり 前すぎて役に立たない。

2000.3.21●「競争力」,リチャード・K・レスター,生産性出版,\2600

 かつて話題を呼んだ「Made in America」の著者が,その後10年の米国経済を検証した書。米国の経済的な復活について,「自動車産業」「鉄鋼業」「半導体産業」「電力業」「移動体通信」のそれぞれについて論考している。前作は,米国が自らを見つめ直した書として取り上げられることの多い好著だが,本書の切れ味はいまいち。悲観的な状況におかれた方が,優れた著作ができるというこ とか・・・。

2000.3.20●「日本の公安警察」,青木理,講談社,\680

 このところ,あちこちの書評で取り上げられている書。日本の公安警察の実態や歴史(戦後)をざっと知るには適している。恥ずかしいことに警察の公安と公安調査庁(オウムで一躍脚光を浴びた)を混同していたことを本書で知らされた。最近相次いでいる警察不祥事のことを考えながら読むと,「公安」という隠れ蓑の後ろの恐ろしさを感じずにはいられない。

2000.3.18●「宰相・田中角栄と歩んだ女」,大下英治,講談社,\2000

 田中角栄サイドからの歴史。中心は越山会の女王と呼ばれた佐藤昭子。佐藤昭子から見た田中角栄と政治家(永田町)の歴史が綴られている。もっともあまりに田中サイドに寄りすぎていて物足りない部分が多い。読者がもっとも知りたい金権の部分などは吹っ飛ばしている。とにかく突っ込みが弱く,物足りない。このところ見直し論が出ている「田中角栄」に上手く乗った企画といった感が強い。

2000.3.17●「Netscape Time」,Jim Clark,Owen Edwards,St. Martin's Press,$24.95

 SGIやNetscapeで名を馳せた大学教授(Stanford大)のJim ClarkがSGIとNetscapeの時代を振り返ったもの。人物評などにかなり地の部分が出ていて,楽しめる本となっている。とりわけSGIでの不遇状態をグチグチ述べている部分は,へ〜といった感じだ。そのほかブラウザ「Mosaic」をめぐる知的財産権争いや米Microsoftとの確執など読ませる部分が少なくない。それと「もの」よりも「人」という価値基準など,米国ベンチャーの尺度が読みとれて興味深い。難点は英語が読みづらいこと(自分の英語力のなさを棚に上げているが・・・)。それほど難しい単語があるわけではないが,すごく読み通すのに時間がかかった。ちなみに途中で判明したのだが,日経BPから訳本が出ている(情けないことに,それを知らずにBPの出版部門のトップに推薦してしまった・・・)。

2000.3.1●「防衛腐敗」,毎日新聞「防衛調達」取材班,毎日新聞,\1500

 NECを巻き込んだ防衛庁の調達スキャンダルを地道に追った書。毎日新聞の社会部が,数々の機密の壁にブチ当たりながら進めた調査報道がまとめられている。非常によく出来ている。この国をおおう不正,癒着,腐敗の一部を描き出している。次は「警察腐敗」かな。こっちも,機密の壁が高そうだが・・・・。高いから価値があるともいえる。

2000.2.28●「学校崩壊」,河上亮一,草思社,\1500

 かつてのベストセラー。中学校の教師が現在の学校教育の実態を描いている。どうせ類書と同じだろうと考えて無視していたが,かみさんが図書館から借りてきたので,いいキッカケと目を通した。結局,さして読む価値を見いだせなかった。時間の無駄とはいわないが,なんだか教師の自己弁護がましい本で興ざめだ。

2000.2.27●「セーフティ・ネットの経済学」,橘木俊詔,日本経済新聞,\1800

 病気,失業,老後などに備えるために存在する制度である年金,保険,生活保護,失業保険,預金保護などについて,日本と欧米を比較しながらその妥当性について論考した書。経済書にありがちな読みにくさはあるものの,ふむふむと読める。読み終えた感想は,「ご説ごもっとも」だが,ただそれだけ。結局,政策形成に対する影響力に乏しい経済学者の提言は,ただの机上の空論ということ。空しさだけが漂う。

2000.2.24●「英語屋さん」,浦出善文,集英社新書,\660

 ソニーの井深大の通訳兼カバン持ち(井深自身は英語をしゃべれたのだが)を務めた筆者の思い出の書。井深に身近に接し,その人となりを活写している。ソニー文化を紹介する本ともなっている。留学したこともない筆者が通訳を務める上で味わった苦労話も興味深い。英語上達法についても触れているが,ふ〜んと思わせる。それにしても,今や書店に行けば英語本が花盛り。日本人の英語コンプレックスを感じるとともに,勉強熱心さにも感心させられる。ソニー本も相変わらず多い。その「英語+ソニー」。書籍の企画としては上出来というか,いやらしいというか・・・。

2000.2.22●「志を高く」,山本卓眞,日本経済新聞,\1400

 富士通の社長だった山本卓眞氏の自伝。日経新聞に掲載された「私の履歴書」を単行本にしたもの。何度か記者発表にも参加したし,富士通のパーティで身近に話を聞く機会もあったが,ズバズバとストレートな物言いに好感がもてる経営者だった。そういう意味では,米国の流儀に近いトップだったといえる。本書の内容はまあまあ。やっぱり富士通は池田敏雄という天才抜きには語れないという思いがいっそう強くなる。

2000.2.20●「経営革命の構造」,米倉誠一郎,岩波新書,\700

 産業革命からカーネギー,フォード,シリコンバレーまで,経営の枠組みを変えた人たちの足跡を追った本。焦点が定まらない感じで,あまり印象に残らなかった。

2000.2.17●「大事なことはすべて盛田昭夫が教えてくれた」,黒木靖夫,KKベストセラーズ,\1500

 本の存在は知っていたが,「またソニー本か」「また盛田昭夫か」とずっと無視していた。著者の名前に気づいていたら,すぐに買って読んだのだが・・・・。黒木靖夫というユニークなキャラクタから見た,これまた超ユニークな盛田昭夫を振り返っている。かなり個人的な話も盛り込まれていて楽しめる。魅力的な本である。

2000.2.15●「経済成長の果実」,猪木武徳,中央公論社,\2400

 日本の近代シリーズの第7巻。1955年から1972年を扱っている。もはや戦後ではないと経済白書が書いたのが1956年。日本の新たな出発とその後の興隆を描いている。日本にとって最も良い時代,逆に言えばその後日本が抱える問題の端緒になった時代に焦点をあてる。私にとっても懐かしい時代だけに,興味深く読み進んだ。

推薦!2000.2.12●「イノベーションのジレンマ」,クレイトン・クリステンセン,翔泳社,\2000

 非常によく出来た本。久しぶりに推薦に値するビジネス書に出会った。なぜ,一時代を画した企業がいずれ衰退していくのかを,うまく分析している。現在の主流企業は,その明晰さ故に敗れ去る点を解き明かすところは秀抜である。技術革新が巨大企業をなぎ倒してきた過程とその分析は示唆に富む。一読をお薦めする。

2000.2.10●「夫と妻」,永六輔,岩波書店,¥660

 本書の読みどころは淡谷のり子の追悼講演の部分。それを読むだけでも,十分に価値がある本。 そのほかにも中山千夏や辛淑玉との対談もあるが,あまり見るべきところはない。 それにしても,飽きずに永六輔の本を買ってしまう私は何なんだと考えてしまう・・・・。

2000.2.9●「親と子」,永六輔,岩波書店,\660

 永六輔の本の良さは,市井の人の発言集にある。本書も,小粋でぐっとくる言葉が数多く 並んでいる。最後の永の一家が,永六輔を語る部分は蛇足だがそれなりに読ませる。 親と子とは何なのかをジックリ考えさせてくれる。

推薦!2000.2.8●「Saving Big Blue」,Robert Slater,McGraw Hill,$24.95

 瀕死のIBMを救ったLou Gerstnerについて書いた本。Gerstnerの箴言が随所に挿入されており 非常に面白い。IBMの伝統を否定し,大幅な人員削減を断行して再生を果たしたGerstnerの 足跡がよく分かる。あのIBMが外部(ナビスコ)からCEOを迎えるなど当時は信じがたかったが, 本書を読むとその正当性が納得できる。しかし,IBMの幹部がびびるほどのカリスマ性とは どんなものなのか。少々興味がある。 ちなみにGatesやGrove,Jobsなどはお目にかかったことがあるが, Gerstnerの会見に出席したことはない。

2000.2.1●「ネットワーク社会の深層構造」,江下雅之,中央公論新社,¥840

 インターネットによるライフスタイルへの影響を記した書。ありがちなテーマで, ありがちな内容。それほど目新しい話が出ているわけではない。職業柄もあって,こ ういった類の本を読むが,なかなか「なるほど」と思わせるものに出会わない。ま あ,そんな気持ちで読む読者が多いとも思えないので,マーケティング的には仕方が ないのだが・・・・。

2000.1.28●「2000年間で最大の発明は何か」,ジョン・ブロックマン,草思社,¥1500

 書店で平積みになっているのをよく見かける本。正月にBSでも放送があったようだ。 雑駁な感じ(メールでのやりとりをベースをしているので仕方がない) で大して面白い内容ではないが,意外な人は意外なものを「2000年間で最大の発明」 として挙げているのが楽しめる。あのマービン・ミンスキーの挙げたものは「何故?」 といった感じで面白いし,エスター・ダイソンやハワード・ラインゴールドは, やっぱりネと思わせる。あっと言う間に読めるので,暇つぶしには向く。

推薦!2000.1.27●「血液の話」,ダグラス・スター,河出書房新社,¥4200

 ちょっと高いし,500ページ弱と重いので手を出しにくい本だが,滅茶苦茶面白い。 米国のノンフィクションの優れた面が凝縮されている。翻訳もよく出来ていて, 500ページといっても,スラスラ読めてしまう。翻訳が下手で200ページくらいでも 難渋する本があるが,雲泥の差だ。本書は「血液(輸血)」の歴史を扱うとともに, 「ビジネスとしての血液」を描き出している。ビジネスとしての血液が生み出した, 医学界と産業界との癒着など,詳細に書き込んでいる。この本を読むと, 日本のエイズ薬害被害の構図がグローバルな視点からよく分かる。 戦争と血液の関係についても,驚かされる。

2000.1.20●「シリコン・ヴァレー物語」,枝川公一,中央公論新社,\760

 まあ,ありがちな本。大して期待せずに読み始めた。結果も,やっぱりという感じ。 この手の本を職業柄もあって何冊も読んでいるので,得るところは少なかった。ただし, シリコンバレー発祥の地というと,HPの例の小屋が登場するが, この本では小屋の前に立つ2階建ての母屋(ここがパッカードの家)が出ている。 ちょっと珍しい。文章はこなれていて,上手にまとめられているので暇つぶしには悪くない。

2000.1.18●「血液の話」,田邊達三,岩波書店,\700  ショッキングな写真が満載された本。血管の病気の恐ろしさがよく分かるし, 血管にはこれだけ多くの病気があるのかと驚かされる。動脈硬化や心筋梗塞,脳梗塞, 血栓症,大動脈瘤など,いろいろなものが並ぶ。

2000.1.14●「気分の社会のなかで」,野田正彰,中央公論社,¥1850

 「コンピュータ新人類の研究」「喪の途上にて」「漂白された子どもたち」などで 知られた野田正彰の最新作。雑誌や新聞向けに書いた評論を集めた本は,えてして雑 駁なものが多いが,本書はけっこう統一感がとれている(途中で情緒的な作品が挟 まっているのは頂けないが・・・・)。神戸の児童殺傷事件を軸に現代の精神病理に ついて話を進めている。とりわけ,「事実の積み重ね」よりも「気分(山本七平流に いえば空気)」で動く日本社会を断罪する。緻密な分析もせず,すぐに気分でものご とを判断する結果,ごまかしが横行し,何も経験が生かされない様を描き出す。 ジャーナリズムに身を置く人間にとって,耳の痛い話が多い。

2001.1.12●「新技術の社会史」,鈴木淳,中央公論社,\2400

 身の回りの技術から世相や社会を切るという趣向の書。日本の近代シリーズの15巻 である。技術というと,すぐにIT(情報技術)と反応するようになっているため,本 書の扱う「洋式小銃」「人力車」「蒸気ポンプ」といった話には,少々勘が狂う。た だし洗濯機や冷蔵庫といった家電製品の話は,けっこう新鮮で面白い。女性にとっ て,洗濯機の果たした役割に関する記述は,なるほどと思わせるものがある。

2000.1.10●「精神の瓦礫」,齋藤貴男,岩波書店,\1900

 最近活躍が目立つ気鋭のジャーナリスト齋藤貴男の書。一度,じっくり読んでみたかったジャーナリストだが,中身はまずまず。地上げのルポ,携帯電話と交通事故,長野オリンピック,世襲議員と階層化社会といった今風の話題を扱っている。同じ齋藤姓の齋藤茂男や鎌田慧の系統をひく感じはあるが,いかにも現代風でサラリとしている。齋藤や鎌田のように現場密着でネットリした感じがない。インターネットで情報を集めているような無機的な雰囲気が漂う。文章はとてもこなれていて読みやすいが,それが逆にドロドロ感を奪っている。

2000.1.5●「誰のせいで改革を失うのか」,江田憲司,新潮社,¥1500

 橋本内閣で内閣総理大臣秘書官(通産省出身)を務めた著者が,改革を阻む霞が関,政治家などの実態を著した書。マスコミ(これがけっこう耳の痛い指摘が満載)や国民の責任についても触れている。改革のポイントがうまくまとまっており,けっこう役に立つ(だたし,興味のない向きには冗長かもしれない)。どんどん後ろ向きになっている政治屋の現状を見ていると,ヤッパリといった感がある。もはや期待もしていないないので落胆もしないが・・・。

1999.12.25●「子どもの社会力」,門脇厚司,岩波書店,\660

 「いじめ」「学級崩壊」といった子どもをめぐる状況について書いた書。著者は,社会性とは異なる「人と人がつながる力」として「社会力」と呼ぶ言葉を導入する。この社会力の形成過程やこどもの社会力を育てる方策などについて触れる。とりわけ,最近の子どもたちの「異常」についての記述には震撼させられる。