「IPの流通と再利用への期待と取り組み」

仏 Design & Reuse 社
日本担当窓口  伊藤 朋子

Design & Reuse 社のご紹介

初めまして、Design & Reuse 社 ( 本社:フランス・グルノーブル ) で日本側の窓口をつとめております、伊藤と申します。
当社は、1997年設立以来、SoC開発者のニーズに応えるために IP( Intellectual property / 社内製ブロックの再利用を含め、以下、単にIPと記す)カタログや設計データ、付加的情報などのIP技術情報を企業間、また企業内で円滑に流通させるため、共通IP流通基盤の構築に取り組んでまいりました。 「IP/SoC」をキーワードにWebサイトを通じて様々な情報を提供し、 IP/SoC開発を支える技術者、Virtual Component製品を提供する企業、その他IP/SoC市場関係者を中立的に媒介しています。

詳しくは当社ウェブサイト、www.design-reuse.com をご覧下さい。
設計情報の共有化、という性質上、情報はすべて英語に統一されており、日本語化の予定は当面ありませんが、毎月20万ページビュー、登録会員(エンジニア)数4万人、隔週、最新のトピック、新製品情報を掲載したNews Alert の配信を行っています。(購読申し込みは無料です。お申込は、こちらから http://www.us.design-reuse.com/users/signup.php )
これからも、オンライン・ポータルとしての利点を最大限に生かし、タイムリーかつインタラクティブな情報交流の場として、IP/SoC市場に 関連する全ての利用者に最新のコンテンツを提供する事で、IP/SoCに関連する情報交流の活性化に寄与し、エレクトロニクス・マーケットの発展に貢献してまいります。また、毎年12月にグルノーブルで行われる IP/SoC カンファレンスは、各国,各分野の専門家を招き,半導体IPに関わる流通、技術、法的な課題について議論する場として、継続的に開催されています。

IPリユース環境の整備に向けて

2006年、半導体IP業界は静かに10周年を迎えました。IP業界は、1996年のVSIアライアンス(VSIA:Virtual Socket Initiative Alliance)の発足によりスタートしました。現在、半導体IPを1つも使用していないSoC (system on chip)/ASICを見つけることはほとんど不可能であり、第三者が開発したIPを活用しなければいずれ設計が破綻するとさえ言われています。このような流れを請け、世界のIP/SoC技術者たちの間で、ブラック・ボックス化した多種多様なIP(Intellectual Property)の流通を望む声が高まってきています。

特に、45nm以降のプロセス技術では非常に複雑なSoCを設計する必要があるため、供給者(IPプロバイダ)と利用者(半導体ベンダー)の取引には標準化されたアプローチが必要であり、ひとたびこれが確立されれば、設計の再利用性が高まり、開発コストの削減につながる、という声が上がり始めました。ブロックを再利用して設計するというのは、言葉で聞く限りは誠に簡単で素晴らしいことのようですが、現実にはその技術的な詳細と実装は簡単ではありません。また、IPに関する法的な問題も考慮しなくてはなりません。この問題を受けて、LSIの設計手法は、見事なまでに素早く1つの考え方に収束していきました。膨大なゲート数のチップの設計を実現するには、以前設計した大きなブロックを再利用するか、あるいはベンダーからそうしたブロックを購入すればよいというものです。既存ブロックや調達してきたブロックを使用し、それに付加価値を持つロジックブロックを追加して、それらすべてを結合するためのロジックを少しだけ用意して接続すればよいということになります。そこで、多くのデザインハウス、大規模なEDAベンダー、また、新興IPベンダーがIPを積極的に提供し始め、今日IP業界と呼ばれる業界が形成されることとなりました。

回路の再利用を考える場合、どの設計チームも、まず最初に社内のライブラリを検索することになると思います。一度利用したことのある回路ブロックが社内にあれば、それを再利用するのは困難なことではありません。しかし、社内にコアはあるものの、モデル、テストベンチ、ドキュメントなどが存在しない場合や、そのコアのアーキテクチャをすでに採用していない場合には、社外へと目を向けざるを得ないのが現状です。
アーキテクチャ・チームや検証チーム、ハードウエア・チーム、ソフトウエア・チームがコミュニケーションをとる場合、もはや紙に書いた仕様では、不十分でしょう。効率的で標準化されたIPコアのカプセル化が先進の設計ツールや設計フローの実現に不可欠ということになります。しかしその場合、ソフトウエア・デバッグ環境や仮想プロトタイプ・モデル、実装可能なRTLといった設計フローの段階において、IPコアの見え方や表現には一貫性が欠かせません。また、設計上、競合との差異化を可能にするためには、標準仕様上での拡張性も必要です。もっと言えば、サード・パーティ企業が提供するIPコアを集積する以上、社内でスクラッチから開発するよりも安上がりになっていなくてはなりません。

日本でのIP活用に高まる期待

1999年に、こちらのサイトの主宰者である中村正規氏がコラム、「半導体業界を語る」で、下記のようなご指摘をされています。

"私の率直な感想は「日本でIPの再利用が進むのは、まだまだ先かな」というものであった。即ち、一方には多様なIPを流通させてシステムASICビジネスを展開したい半導体メーカの思惑があり、もう一方では半導体メーカがライセンスしたIPだけを使用してあらゆるリスクを最小に抑えたいユーザ側の思惑が見えるからだ。特に、日本には自らリスクを取って、小さなベンダのIP製品を採用する半導体ユーザは少ないような気がする。もともと、IPの再利用の目的は設計時間の短縮にあったはずだが、日本ではIPのライセンスに関する法務問題に長い交渉時間がとられ、IPの本来の利点が活用できないという事例がより多く存在するようだ。「IPのビジネス・モデルが日本に定着するまでには、長い時間がかかる」という私の認識がこのパネルでさらに強まった感じだ。海外、特に米国でIPの利用が進み、IPの文化と業界標準的なビジネス・ルールが確立されるまで、日本はそれを眺めながらゆっくりと世の中の流れ追随するしかないのだろうか? (引用:「中村正規の半導体業界を語る」第八回 "http://www.eis-japan.com/nakamura/071599.html " )

残念ながら昨年においても、IP業界の10周年を祝う気配がまったくといっていいほどありませんでした。10周年を祝う動きがなかったということは、この業界が最高潮に達するまでにまだまだ長い道のりを要することの証だと言えるかもしれません。

IP業界の10年とともに歩んでまいりました Design & Reuse 社の IP カタログ機能は業界のスタンダードになりつつあります、その事例として、今日では、Arm, シノプシス、メンター、ザイリンクス、LSI Logic,をはじめとする、大手半導体メーカや、アルカテル、シスコといったセットメーカーなどが、自社IPの製品カタログそのものを、IPの社内外再利用・共有、デリバリーの効率化を目的とした「イントラネット・エクストラネット」として導入・活用しています。

80年代や90年代初期には、半導体の技術開発が先端技術産業界全体を支え、技術開発の主体は大企業の研究所や政府研究機関が中心的役割を演じてきましたが、90年代後半期からはその様相は一変し、ベンチャ・スタートアップに対する投資の主体でである、Private Equity・Venture Capaital の資金に依存した「短期」で「集中的」な技術開発が台頭して来ました。今日における新製品の多くが、このようなモジュール化された技術の流通により開発されてきたことは否定できません。同様に、今後の先端技術開発や先端技術の応用製品を展開してゆく過程において、部品としては究極のモジュールであるとも言える「IP」の果たす役割を活性化させていかない限り、技術者が効率的に作業を遂行し市場性・競合力を併せ持つ先端技術応用製品を開発して行く事は難しくなると思われます。

中村氏が指摘した1999年から8年も経過したにもかかわわらず、日本でのIP流通はまだまだ黎明期と言わざるを得ません。しかしながら、私は、いずれは我が国も半導体先進国として、積極的にIP再利用の一翼を担っていってほしい、と願ってやみません。Design & Reuse には北米を始め、世界中のIPベンダーが自社製品の情報を積極的に掲載・更新し、会員の大半を占めるエンジニアたちからのアクセスは毎月20万にものぼります。今後、日本からも多くの知的財産が掲載・発信され、注目を集めていくことを強く希望します。

Embedded System と D&R

Design & Reuse サイトには、世界中から多くのデザインハウスが提供するサービスなどを掲載しています。( 実例はこちら http://www.us.design-reuse.com/designcenter/)
日本企業からの掲載も随時受け付けております。年会費は売上高に応じ、年間1,000ドルからとなります。
詳しくは、LUNA2@design-reuse.com までお問い合わせ下さい。

Design & Reuse では、Embedded Systems に関する最新ニュースも掲載しています。http://www.us.design-reuse.com/articles/embedded-systems-0.html