第1回 北海道 札幌ITカロッツェリア/株式会社ビー・ユー・ジー

[編集部から]

 EISでは、最新の組込み関連技術を開発している地方の優れた企業や各地域での産業クラスター活動を紹介する、「旋風は地方から」の連載を始めました。
記念すべきその第1回に登場して頂いたのは、財団法人 北海道科学技術総合振興センター(通称:ノーステック財団)が実施しているプロジェクト、札幌ITカロッツェリアと、この活動を通じて(株)ビーユージーが開発した農園監視システムです。
読者の皆さんの中には、昨年のET2003で優秀な展示社に贈られる「ETアワード」で北海道ノーステック財団がJASA特別賞を受賞したことを記憶されている方もおられるかもしれません。
この「旋風は地方から」に登場させたいと思っている各地方の先端企業やユニークなクラスター活動などがありましたら、編集部(msc@st.rim.or.jp)までお知らせください。


「農園監視システム」  株式会社ビー・ユー・ジー

−ITカロッツェリア、ユビコン・プラットフォーム応用システム

■ 札幌ITカロッツェリアとは?

札幌ITカロッツェリアは、北海道科学技術総合振興センターが推進している産業クラスター活動のひとつで、組込みシステムの開発プロセスにユーザビリティ、デザインの要素を取り入れた「ラピッド・プロトタイピング」の実現などを目指している。
このプロジェクトには、この地域の有力企業の他に、北海道大学や工業デザインのコースを持つ札幌市立工業高専なども参加している。

この活動の中心になって活躍している株式会社ビー・ユー・ジーは、北海道大学大学院情報科学研究科・青木由直教授のグループとこの「札幌ITカロッツェリア創成」構想プロジェクトの研究テーマの一つである「環境指向型PC ユビコン(ユビキタス・コンピュータ)デザイン技術開発と利用法の標準化」のための共通プラットフォームを共同研究している。

平成14年度には、ユビコン環境構築のためのハードウェアプラットフォームを開発し、ユビコン・プラットフォームの応用システムである「農園監視システム」を開発した。

■ 株式会社ビー・ユー・ジー(BUG)

 BUGは、札幌にあるシステムハウスで、ハードウェアからファームウェア、ソフトウェア開発まで手がけており、その名前は全国的にも知られている。同社の社員数は、110名ほどで、その約8割が開発エンジニアである。本社/研究所は、原生林が広がる野幌森林公園に隣接する「札幌テクノパーク」内に立地し、豊かな自然環境の中、開発の仕事を進めている。

同社の事業分野は幅広く、印刷・出版関連システムや、航空会社向け予約システム、フルIP対応のコールセンターシステムなど特殊用途向けシステム開発から、デジタルハイビジョン編集のための映像機器、ネットワーク組込み機器、パソコン用アプリケーションや周辺機器のソフトウェア開発まで、様々な業種のユーザーの要望を実現すべく、開発に取り組んでいる。

 中でも、農園監視システムを開発した組込み機器開発チームは、基板の新規設計からカスタマイズ、ソフトウェアの新規開発・移植など組込みに関する一連の開発を独自で行い、また、ITRON、VxWorks、Linux、Windowsなど、あらゆる環境に柔軟に対応することが可能である。

■ 農園監視システムとは

 農園監視システムは、カメラ、気象センサ、無線ネットワークなどが装備されており、指定した日時に、対象物の静止画や気象データを記録して、メールで送信することができるシステムである。主に、市民農園レベルの使用を想定したシステムとなっている。実は、このシステム、BUGで借りている野幌森林公園内の市民農園でメロンを枯らした経験から「あったらいいな」を実現したものだ。

 BUGでは、豊かな自然環境の中に隣接していることもあって、野菜や果物を栽培する社内クラブ、通称「植木クラブ」の活動も活発に行われている。植木クラブでは、昨年の春から、初挑戦にも関わらずキングメロンを育てることになった。メロンの栽培は、なかなか大変で、容易ではない。ビニールのトンネル内に苗を植えるわけだが、温度管理が重要で、天気によって、トンネルの開け閉めが必要となった。寒暖の差がメロンを甘くするのだが、日中暑すぎてはいけず、雨にあたってもいけず、実がなってからは水をやりすぎても味覚が低下する可能性もあり、とても手間のかかる果物のようだ。会社から野幌森林公園内の畑まで、車で約10分だが、これは近いようで遠いこの距離である。クラブのメンバーにとっては、トンネル内の温度を逐一メールで送ってくれたら!雨が降っていることが分かったら!必要なときにトンネルの開け閉めに行けるのに・・、などの願望や期待があった。また、野幌森林公園には、アライグマやキツネやカラス、いろいろな動物の被害も心配だった。そんな動機から、農園監視システムというアイデアが生まれたのだが、まだシステムが完成しないうちに、最初に植えたメロンの苗は枯れてしまう結果になった。

 このような着想から発生したこのプロジェクトではあったが、いざ完成してみると、電源が取れない場所でも動作することから、市民農園の監視のほか、食糧備蓄倉庫やゴミの不法投棄の監視、イベントの定点カメラ観測などにも応用範囲が拡大した。

■ 様々な機能の紹介

◆完全ワイヤレスで設置が簡単、かつ長時間動作

農園監視システムは、乾電池で動作するため、太陽光発電などが不要である。通常は省電力モードで待機し、指定時間になると動作を開始させるようになっているため、消費電力が抑えられ、単1乾電池8本で、約1ヶ月間も動作可能である(省電力モード40mW/通常モード1.5W)。また、無線ネットワークで通信を行うため、設置が容易で屋外での長時間の使用や設置場所が頻繁に移動するような用途にも柔軟に対応することができる。

◆作物の成長記録に 〜 JPEG画像の記録とメール配信

 農園監視システムには、1600×1200ピクセルのCMOSイメージセンサカメラとSDメモリカード、PHSカードが装備されており、指定した時間にPHSを使ってメールで静止画を送信する。 この機能は、作物の成長記録などにも有効である。

◆気象データの定期測定

 指定した時間に、気象センサのデータ(温度、湿度、土壌水分等)をメールで送信することができる。

◆動物被害や盗難の対策に 〜 モーション検知

 簡易画像認識により、静止画像の違いからモーションを検出して静止画をメールで送信することができるため、動物被害や盗難などの対策にも有効な手段となる。  
昨年、東北地方などで多発したサクランボなどの農作物の盗難事件も、このシステムで防止できたかもしれない。

◆農園監視システム本体の盗難検知

 農園監視システム本体にも盗難検知機能が付属している。本体が、地面と平行な状態から大きく上に傾いたとき、盗難検知機能が働いて、静止画を記録し、メールで送信することがでる。この場合、20回静止画の送信を繰り返し行うため。盗難時の状況確認にも役立つ。

■ 導入例

 実際の運用実験では、株式会社NTTドコモ北海道 、北海道放送株式会社 財団法人日本気象協会の協力を得て、大通り公園にて「さっぽろ雪祭り」会場での雪像製作の様子や、網走港における流氷の様子の定点撮影に使用された。

 農園監視システムから送られてきた写真をいくつか紹介する。

「さっぽろ雪祭り」からの伝送画像

網走港から伝送された画像

また、このシステムをいくつかの展示会に参考出品したところ、大きな反響があり、農園監視という用途よりも、むしろ簡易形の監視システムとして使用したい、というご要望などが数多く寄せられた。

■ 今後の課題

 実際の運用実験ではまだ、低温の屋外で長時間動作させておらず、今後の課題として北海道などの寒冷地での屋外の長時間利用にも耐えうるように寒冷地対策、風雪対策などの対応が課題となっている。

■ おわりに

 一応、プロトタイプが完成した農園監視システムは、結局、メロンの成長記録/管理には間に合わなかったのだが、なんと野幌森林公園内はPHSの電波が届かないことが判明した。しかし、今年度はFOMAに対応するため、野幌森林公園でも大活躍し、手間を減らしておいしいメロンが食べられることが期待されている。
(終わり)