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横田英史の読書コーナー

「こころ」はいかにして生まれるか〜最新脳科学で解き明かす「情動」〜

櫻井武、ブルーバックス

2018.12.17  10:07 am

 「こころ」は生体の機能にどのような影響を与えるのか、逆に生体の機能から「こころ」はどういった影響を受けるのか、神経科学から見たときに「こころ」はどういった位置づけになるのか、といったテーマについて解説した啓蒙書。例えば、全身の器官は脳に情報をフィードバックして感情や気持ちを修飾し、「こころ」を変化させると説く。脳の状態に影響を与える生体内の要素を完全に再現しない限り、「こころ」を理解したことにはならないと語る。単純に「こころ=脳」とならないと説く。脳の構造や神経の構造から説き起こしており、初学者でも理解が進む。脳科学に興味のある方にお薦めの1冊である。

 筆者は「情動」を、感情の客観的かつ科学的な評価だと位置づける。ここでの情動とは、「喜び」「怒り」「悲しみ」「恐怖」などを指す。人間によって感情(情動)が必要なのは、生存確率を高めるためだと語る。そのため、認知系が情動を支配する力よりも、情動が認知系を支配する力の方がずっと強いという。

 また本書では「こころ」と情動、記憶の関係を明らかにする。記憶と情動は「こころ」を作る上で車の両輪であり、欠かせないものだと語る。記憶にも情動にも、全身の状態が大きな影響を与える。つまり脳が、鼓動や手のひらの発汗、全身の震えといった体の状態を認知することで、記憶や情動は変容する。全身の機能も脳と一体化したシステムの一部であり、全体として情動を制御しているという。

書籍情報

「こころ」はいかにして生まれるか〜最新脳科学で解き明かす「情動」〜

櫻井武、ブルーバックス、p.240、¥1080

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。