トヨタ物語〜強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ〜

野地秩嘉、日経BP社

 トヨタ自動車の歴史をたどりつつ、日米の現場への丹念な取材によってトヨタ生産方式の真髄や本質を探った書。圧巻の取材量でトヨタの哲学に肉迫しており、上っ面の紹介にとどまっていないところが本書の特徴である。端々で人間臭さを感じさせているところがいい。全般に説得力のあるノンフィクションに仕上がっており、トヨタに興味をお持ちの方にお薦めである。400ページを超える大著だが、スイスイ読めるので気後れする必要はない。


 興味深いのは豊田家をはじめ、幹部が現場でどういった経験を積み重ねてきたかを詳細に追っているところ。豊田家では喜一郎、英二、章男など、幹部では大野耐一、鈴村喜久男、張富士夫、友山茂樹といった面々が登場する。現副社長の友山茂樹はこう語る。「トヨタ生産方式に必要なことは、本で学ぶ知識でもなければ突出した能力でもない。悩む力=悩力です。悩むことによって心の筋肉が鍛えられる。するとある日突然できないと思っていたことができるようになる」と。

 

 トヨタ生産方式の要素として挙げられる「アンドン」の紹介も充実している。単なる機能や仕組みにとどまらず、その裏にある哲学にまで言及し読み応えがある。このほか、トヨタの現場には自然法則(例えば重力)をつかった“からくり”仕掛けに搬送機が多様されているという指摘も、現場出身の評者の琴線に触れたところだ。

 

 最後にひとこと。優れたノンフィクションだが、残念なところもある。美化し過ぎの感があり、へそ曲がりのジャーナリストからとすると、できればトヨタ生産方式の影の部分にまで迫ってほしかった。

書籍情報

トヨタ物語〜強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ〜

野地秩嘉、日経BP社、p.408、¥2484

横田 英史 (yokota@nikkeibp.co.jp)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。
日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現IT Pro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。
2003年3月発行人を兼務。2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。
その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月から日経BPコンサルティング取締役、2016年3月から日経BPソリューションズ代表取締役社長を兼務。2018年3月退任。2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所グリーンテックラボ主席研究員、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組み込み制御、知的財産権、環境 問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。

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