横田英史の読書コーナー
絶滅の人類史〜なぜ「私たち」が生き延びたのか〜
更科 功、NHK出版新書
2018.4.4 9:48 am
現在の人類ホモ・サピエンスがどのようにして生き残ったのかを論じた書。ヒトにとってチンパンジーよりも近い生物は25種も存在したが、その全てが絶滅した。「われわれ人間(ホモ・サピエンス)が存在するのは偶然なのか」と筆者は問いかけ、最新の研究成果を踏まえその理由について語る。洒脱な筆致で人類史を語る優れた啓蒙書である。類書は少なくないが、ざっと人類史を知りたいときに役立つ。
筆者は歩行(二足歩行か四足歩行)や食生活、脳の大小大、繁殖、子育て、社会といった視点から人類が生き残った理由を探る。ポイントの一つは「優れたものが価値の残るのではなく、子供を多く残した方が生き残る」といった点。
もう一つのポイントが脳である。脳は大きなエネルギーを消費する臓器だ。エネルギーに見合った食料の摂取が必要になる。脳が必要以上に大きいと、エネルギーを無駄遣いすることになる。石器や火の使用によって消化の良い肉食を増やすことができ、ヒトは脳を大きくし腸を短くすることができた。そして食事や消化に時間がかからなくなって暇になった人類は、その暇な時間に大きな脳を使い始めるようになった。つまりヒトらしい行為で、進化を加速した「コミュニケーション」をするようになったというのが筆者の見立てである。
書籍情報
絶滅の人類史〜なぜ「私たち」が生き延びたのか〜
更科 功、NHK出版新書、p.249、¥886
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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