現在の人類ホモ・サピエンスがどのようにして生き残ったのかを論じた書。ヒトにとってチンパンジーよりも近い生物は25種も存在したが、その全てが絶滅した。「われわれ人間(ホモ・サピエンス)が存在するのは偶然なのか」と筆者は問いかけ、最新の研究成果を踏まえその理由について語る。洒脱な筆致で人類史を語る優れた啓蒙書である。類書は少なくないが、ざっと人類史を知りたいときに役立つ。
筆者は歩行(二足歩行か四足歩行)や食生活、脳の大小大、繁殖、子育て、社会といった視点から人類が生き残った理由を探る。ポイントの一つは「優れたものが価値の残るのではなく、子供を多く残した方が生き残る」といった点。
もう一つのポイントが脳である。脳は大きなエネルギーを消費する臓器だ。エネルギーに見合った食料の摂取が必要になる。脳が必要以上に大きいと、エネルギーを無駄遣いすることになる。石器や火の使用によって消化の良い肉食を増やすことができ、ヒトは脳を大きくし腸を短くすることができた。そして食事や消化に時間がかからなくなって暇になった人類は、その暇な時間に大きな脳を使い始めるようになった。つまりヒトらしい行為で、進化を加速した「コミュニケーション」をするようになったというのが筆者の見立てである。
書籍情報
絶滅の人類史〜なぜ「私たち」が生き延びたのか〜
更科 功、NHK出版新書、p.249、¥886