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横田英史の読書コーナー

コミュニティー・キャピタル論~近江商人、温州企業、トヨタ、長期繁栄の秘密~

西口敏宏、辻田素子、光文社新書

2018.3.5  10:02 am

 コミュニティで培われる気風、習慣、人材育成の仕組み、人のつながりの構造が、ビジネスにおける継続的な繁栄にいかに有効かを論じた書。特定のメンバーシップによって明確に境界が決まり、その成員間でのみ共有された関係資本を、筆者は「コミュニティー・キャピタル」と呼びビジネスにおける長期的成功の要諦の一つだとする。優れたコミュニティー・キャピタルは、環境異変に対する高い耐性や成長性、長期にわたる成長と繁栄につながるという。さほど期待せずに読み始めたが、視点がよく拾い物の1冊だった。

 筆者は近江商人や中国の温州人のコミュニティの分析からはじめ、トヨタの成功の秘密に迫る切り口はユニークだし、ケーススタディとした挙げている東日本大震災におけるルネサス那珂工場の被災やアイシン精機の火災事故から復活劇も悪くない。ルネサスやアイシン精機については少し美化された感もあるが、非常に具体的な内容で役立ち感があるのは間違いない。EIS の読者の皆さんに身近な話題も多く、お薦めである。

 近江商人や温州人のコミュニティから著者が得た知見の一つは「同一尺度の信頼」である。成功体験がメンバー間に刷り込まれることで、その累積から「同一尺度の信頼」が生まれる。これが同じコミュニティへの帰属意識の強化につながる。面識のないメンバー間でさえ積極的に協力し合う準紐帯が醸成されるという。

書籍情報

コミュニティー・キャピタル論~近江商人、温州企業、トヨタ、長期繁栄の秘密~

西口敏宏、辻田素子、光文社新書、p.334、¥929

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。