戦争調査会~幻の政府文書を読み解く~

井上 寿一、講談社現代新書

 幣原喜重郎内閣が敗戦後に、太平洋戦争を検証するために立ち上げた国家プロジェクト「戦争調査会」の記録を丹念にたどった書。筆者も述べているように特筆すべき新事実が明らかになっている訳ではないが、うまく整理されていて役立ち感がある。同じ悲劇を繰り返さないうえで重要な知見を与えてくれる。この書評で取り上げた加藤陽子の著作「戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗~」や「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」と併せて読むのをお薦めしたい。

 

 戦争調査会は敗戦直後に戦争関係者や当事者を呼び、なぜ戦争は始まったのか、引き返すことができなくなった分岐点はいつだったのか、どのように終わったのか、などについて政治、外交、軍事、経済、思想、文化の視点からヒアリングを行った。調査会としては、「なぜ起きたか」よりも「なぜ早期に終結できなかったのか」に比重があったという。会議の回数は40回を超えたが、GHQ によって廃止された。ユニークなのは新聞やラジオを通して資料の公募を行った点。集まった資料は玉石混交だったようだが、真相究明に向けた調査会の意気込みを感じさせる。

 

 世界経済がブロック化に流れていた環境のなかで日本は開放的な自由貿易体制を主張していた、日中戦争の継続と日米戦争の回避は両立可能だったなど、本書には評者にとって興味深い事実も含まれている。第5部会(科学技術)の部会長が八木アンテナ開発者の八木秀次というのも面白い。八木アンテナの特許切れがレーダーの開発を促し、敗戦の一因となったというのが戦争調査会の見立てである。

書籍情報

戦争調査会~幻の政府文書を読み解く~

井上 寿一、講談社現代新書、p.264、¥950

 

横田 英史 (yokota@nikkeibp.co.jp)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。
日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現IT Pro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。
2003年3月発行人を兼務。2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役に就任。現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組み込み制御、知的財産権、環境 問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。

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