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横田英史の読書コーナー

「週刊文春」編集長の仕事術

新谷学、ダイヤモンド社

2017.5.3  9:44 am

 現役の週刊文春編集長がメディア観や仕事術、仕事への思いを語った書。スクープの舞台裏も明らかにする。分野は異なるものの雑誌編集長を経験したことのある評者には納得できる点が多かった。仕事術には情報収集の方法、人脈の築き方、交渉術、発想法、企画の立て方、組織の作り方、組織の長としての覚悟などが含まれており、雑誌編集長だけではなく管理職の方々にも役立つ内容である。肩の凝らないビジネス書としてお薦めできる。

 筆者は「週刊誌作りの原点は『人間への興味』だ」と語る。新聞、テレビなど、多くのメディアは、事件を「人間」ではなく「図式」で見ているのではないか。相関図を描いて「こっちが贈賄側、こっちが収賄側」と、まるでパズルを解くようにマニュアル的に取材しているのではないか。事件は人間が起こすもので、図式でもマニュアルでもない。人間として「がっぷり四つ」で付き合って、胸襟を開かせ、口説き、口を開かせて初めて我々の仕事になると、自らのメディア観を明らかにする。“文春砲”とまで称されるスクープが次々と生まれるのには、ちゃんとした仕組みと思いが存在し、偶然ではないことが本書を読むとよく分かる。

 現在のメディアが置かれている状況の分析が興味深い。例えば SNS が普及したことで、人間関係も「ストック」ではなく「フロー」になっているように感じるという。新聞・テレビとネットとの温度差は拡がる一方だ。それに比例するようにマスコミ不信は膨れえ上がっていく。読者、視聴者はとっくに「何が真実なのか」を自ら知るようになっている。

書籍情報

「週刊文春」編集長の仕事術

新谷学、ダイヤモンド社、p.256、¥1512

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。