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横田英史の読書コーナー

移民の経済学

ベンジャミン・パウエル編、薮下史郎・ 訳、佐藤綾野・訳、鈴木久美・訳、東洋経済新報社

2017.3.26  9:39 am

 移民政策について、経済学の視点から切り込んだ書。移民が受入国の経済、社会、文化にどのような影響を及ぼすかをデータに基づいて論じる。初めて知る内容が多く役立ち感がある。今の時代に押さえておくべき内容が盛り込まれており、多くの方にお薦めしたい。

 移民の経済的、文化的、政治的な効果について膨大な研究成果が蓄積されているにもかかわらず、政策にまったく生かされていないと筆者は断じる。メディアや議会、社会で行われている議論の多くは客観的とは言えず、感情的だと非難する。例えば雇用に対する影響はごく僅かだという。メディケアや社会保障などの給付制度においても、移民は長期的に見て受け取る金額よりも支払う額が多くなる。特に移民の子孫世代は、社会に対して第一世代に投じた費用を大きく上回る貢献を果たす。

 ちなみにギャラップ社の調査では、成人人口の14%が他国に移り永住したいと回答したという。世界の最貧国5分位に限ると40%に達する。こうした状況で裕福な国々への移民政策が完全に撤廃されると、世界経済には50兆ドルから150兆ドルの利益がもたらされるという。国境の開放は、世界の生産量を急激に増加させる一方で、世界の貧困や不平等を劇的に低下させる。政府予算、政治、犯罪への影響については、小規模にとどまる。

書籍情報

移民の経済学

ベンジャミン・パウエル編、薮下史郎・ 訳、佐藤綾野・訳、鈴木久美・訳、東洋経済新報社、p.348、¥3024

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。