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横田英史の読書コーナー

《推薦!》ポピュリズムとは何か~民主主義の敵か、改革の希望か~

水島 治郎、中公新書

2017.2.17  9:46 am

 米国におけるトランプ大統領の誕生、英国のEU離脱、欧州の政治状況、日本における橋下徹・前大阪市長など大衆迎合主義(ポピュリズム)が世界を覆っているいま、時宜にかなった書である。歴史的な背景に基づいて、ポピュリズムがデモクラシーに内在する矛盾を端的に示すものとして解説する。「世界はどうなってしまったのか?」と思っている方にお薦めの1冊である。

 冒頭で「ポピュリズムは、デモクラシーの後を影のようについてくる」という言葉を取り上げる。実際、このところの政治状況を見ると、民主主義先進地域とされる欧州(ドイツ、フランス、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、ベルギー、ノルウェー、スウェーデンなど)でポピュリズム政党が大きく党勢を伸ばしている。

 この疑問に本書は答える。つまり、左右政党の接近、既成政党の「同質化」現象を背景に果たしたとする。ポピュリズム政党は既成政党を「同じ穴のムジナ」とみなし、既成政治批判を掲げることで、有権者の不満を一手に引き受けた。現代のポピュリズムは。「リベラル」「デモクラシー」といった現代デモクラシーの基本的な価値を承認し、むしろそれを援用して排除の論理を正当化する。政教分離や男女平等、個人の自立といったリベラルな価値に基づき、「政教一致を主張するイスラム」「男女平等を認めないイスラム」を批判する。

 筆者はポピュリズムを、人民に依拠してエリートを批判する「下」からの運動と定義する。南米では軍政や圧政からの解放につながり、欧州では既成政党の改革につながるなど、ポピュリズムのプラスの面を取り上げる。安定したデモクラシーにおいては、ポピュリズム政党の出現はデモクラシーを活性化する効果がある。一方、安定的なデモクラシーを実現していない国の場合、ポピュリズム政党は権限の集中化を図ることで、制度や手続きを軽視し、デモクラシーに対する脅威となると指摘する。

書籍情報

ポピュリズムとは何か ~民主主義の敵か、改革の希望か~

水島 治郎、中公新書、p.244、¥886

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。