横田英史の読書コーナー
人口と日本経済~長寿、イノベーション、経済成長~
吉川洋、中公新書
2017.1.6 10:39 am
人口が減少するからといって日本経済の衰退につながるわけではないことを歴史と経済学的な観点から説いた好著である。人口減少を必要以上に悲観的にとらえることの“愚”を指摘する。著者は人口減少ペシミズム(悲観主義)が行き過ぎていると語る。逆に日本が世界有数の長寿国であることこそチャンスだと主張する。
超高齢化に突入する日本の今後を冷静に判断するためのヒントを与えてくれる書である。吉川洋らしい説得力のある論考は読むに値するし、古代ギリシアの衰退と日本の状況を対比した議論も興味深い。198ページとコンパクトな新書なので、出張時や通勤時間に読むのにお薦めの書である。
著者は先進国経済で成長を生み出す源泉は、高い需要の成長を享受する新しいモノやサービスの誕生、すなわち「プロダクト・イノベーション」だと主張する。例えば高度成長が労働人口の旺盛な伸びによって生まれたものではなく、労働生産性の伸びによってもたらされたことを明らかにする。
所得水準が高く、マーケットサイズが大きく、超高齢化という問題に直面している日本経済は、日本企業にとって絶好の実験場を提供しているとポジティブにとらえる。日本経済の将来は、日本企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するかにかかっていると説く。
書籍情報
人口と日本経済~長寿、イノベーション、経済成長~
吉川洋、中公新書、p.198、¥821
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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