Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

つながる脳科学~「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線~

理化学研究所 脳科学総合研究センター、ブルーバックス

2016.12.28  10:35 am

 理化学研究所 脳科学総合研究センターの研究チームのリーダーたちが、分かりやすい語り口で最先端の脳科学研究の現場を解説した啓蒙書。ブルーバックスらしい出来で満足度は高い。脳科学の研究から得られた最新の知見だけではなく、それを支えるオプトジェネティクス(光遺伝学)などの最新技術やツールの話も実に興味深い。進歩の早い脳科学の最新状況を知ることができ、“脳”好きの方に強くお薦めできる1冊である。

 例えば第1章の「記憶をつなげる脳」では、記憶はどこに蓄えられ、どのように思い出されるのかについてのメカニズムが明らかになりつつあることを明らかにする。記憶を人為的に想起させたり、経験していない記憶を作ることまで可能になっているという。うつ症状やアルツハイマー病、自閉症の治療につながると期待をもたせる。

 第2章は「脳と時空間のつながり」である。自分がどこにいるか、時間がどれくらい経ったかをどのように認識しているかについて言及する。脳には地図(しかも絶対空間)や時計のような役割をする神経細胞が存在するという。興味深いのは、位置を記憶するために場所細胞はデータを圧縮して蓄えるている点。数秒かけて行った場所の移動を0.1秒くらいに圧縮して、逆順にリプレイする。これは学習効果に関係するとみられる。さらに夢を見ているときは歩行中と同じ速さで、夢を見ていないときは圧縮されてリプレイされるというのも実に面白い。

 期待をもたせるのは脳の病の治療だ。心の病と言われるうつ病なども、本当は脳に原因がある「脳の病」だとする。薬では根本治療とはいえない。脳の仕組みを知ることで根本治療に一歩近づこうとしているという。精神疾患と神経疾患は、いずれ脳の疾患として一つに統合されると見込む。

書籍情報

つながる脳科学~「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線~

理化学研究所 脳科学総合研究センター、ブルーバックス、p.324、¥1253

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。