横田英史の読書コーナー
欧州複合危機~苦悶するEU、揺れる世界~
遠藤乾、中公新書
2016.11.30 10:19 am
1993年に誕生したEU(欧州連合)が危機的状況に陥っている。危機の深層を追った本書は、欧州の状況を理解するうえで格好のテキストである。タイトルの「欧州複合危機」は、危機が複数性、連動性、多層性を帯び、合成されている状況を指す。正鵠を射た指摘だろう。
筆者は、ギリシア発のユーロ危機、難民問題、ウクライナ問題、テロ、英国のEU離脱などの背景を、欧州統合の政治史のなかで位置づけながら解説する。今回の危機は今までと違うのか、EUは本当に崩壊するのか、何が引き金になるのか、今後の展開や世界への影響について切れ味が鋭く論じる。論旨は明解で、す~っと腑に落ちる。今後の世界情勢を考える上で貴重な情報を提供しており、多くの方にお薦めできる。
本書を読んで分かるのは、EU内で複数の合理性が併存し、その間で決着がつかないということ。例えば経済的な合理性ですら、ドイツと他の国とではまったく別物である。筆者は「放っておけば、政治的な合理性は、国のなかでも分裂し、貧困、南北、エリートとマスなどのあいだで細分化する」と予測する。まさにデッドロックにはまり、にっちもさっちもいかないのでEUの現状といえる。
「みんなで決めたから正しい」とする民主的正統性がEUでは希薄という問題も重要な論点である。EUには欧州議会などの民主的機関を一応持っているが、低投票率などの問題を抱え、民主的正統性は脆弱なままという。
書籍情報
欧州複合危機~苦悶するEU、揺れる世界~
遠藤乾、中公新書、p.294、¥929
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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